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あ、ありのまま今起こったことを話すぜ! 私は使い魔の品評会に出ることになった。 ネタは名付けてマジシャンズレッドに投げさせて会場の上空を自在に飛び回る回転飛行ガメ乙の舞だ。 好評だった。 自分でもびっくりするくらいの大好評。 生徒、教師、来賓客共が皆揃ってスタンディングオベーション(standing ovation)しているような扱いだったね。間違いない。 だがその後のトークで『王女様を見ることが出来て私は幸せです「どこが気に入ったんだー」色々と良いが特に胸が…ハッ』と野次に素直に答えてしまったのが不味かったらしい。 顔を微かに赤くして恥らう王女様には謝罪の意を込めた礼を、観客達にもちゃんとその後に冗談ですって言ったんだけどな…(勿論マジシャンズレッドでガードしたが)ルイズには踏まれるわエロナレフとまた呼ばれちまうわ回りの視線は(使い魔のものにいたるまで)生暖かいわで大変だったぜ。 しかも裏に引っ込んだ後も、ルイズは『マジにアンタ明日には亀鍋になる運命なのね』って冷たい目で俺を見下ろしてきやがる。 私のパフォーマンスでなんとも酷い仕打ちだ。 所詮トリスティンはまだコメディーが存在しない文化的後進国だと思うことにするしかあるまい。 そうでも思わんとせっかく見世物になってやったというのに切なすぎるからな。 そうやって私は文化の違いが生み出す決定的な価値観の違いに悩まされながらも、DIO退治の旅を乗り越えるなど精神的成長を何度も繰り返してきた30代としてめげることなく品評会の会場から離れていった。 ルイズはまだ私を罵っているがそんなものは聞き流してだ。私はそこまでマゾじゃあないんでな。 コイツの説教を全部聞くなんて、できるわけがない! 会場を離れながら、なんとなしに見上げた空ではタバサとかいう無愛想なガキのドラゴンが悠々飛ぶ姿が見えた。 タバサが一位だったらしい。さっきまで私に野次を飛ばしたりしていた会場からは拍手が聞こえてきてちょっぴり寂しいぜ。 私がいたことはもうやつらの記憶の中にはないだろう。思い出されることも、多分ない。 肉体を失ったせいか、それとも フッと亀の中でニヒルな笑みを浮かべた私は、マジシャンズレッドの立つ地面が少し揺れているのに気がついた。 「聞いてるのカメナレフ! アンタ、こここんどという今度は反省しなさい!」 「ルイズ…なんかおかしくねぇか?」 マジシャンズレッドを操る事に思考を裂きながら、私はルイズに聞いた。 足を止めたルイズは最初嘘と決め付けたようだったが、ルイズが誤魔化すんじゃないッとか私に言ってくるより先に、宝物庫のある塔の方から大きな音が聞こえてきた。 口を開きかけていたルイズは面白くなさそうな表情をして亀を掴んだ。 「カメナレフ、説教は後にするわ。行くわよ」 「まだ言い足りないのかよ」 一言言われただけでうんざりしていた私に、ルイズはまるで私が変なことでも聞いたような表情で言う。 向かう先から吹き付ける風がルイズの髪をなびかせ、亀の天井から見える私の空をピンク色の帯で覆っていく。 時折隙間から見える青い空が、待っていく土のかけらまでもが印象的に見える風景だった。 「当然でしょ、あんた全然聞いてるようには見えないわ」 私のちょっとした楽しみに水を差すようなルイズの言葉。 そしてまた轟音が亀の中までも響かせていく。 「ゴ、ゴーレムだわっ!? 大きい…ッ30メイルはあるわねッ!」 また音がする。 巨大な何かが何かを打つような音だ。 動揺した声に返事を返さず、私はマジシャンズレッドを呼出してルイズの前面に展開する。 野郎が地面を揺らし、吹き付ける土交じりの風から身を守りながらマジシャンズレッドはそのゴーレムを確認した。 全長30メートルのゴーレム…遠目にも巨大であり、近づけば更に圧倒的な威圧感を持つそいつは塔へと攻撃していた。 ルイズと私の亀のことなどまるっきり無視して塔をまた殴りつける。 轟音と、地響きが私達を襲った。だが塔は無傷、魔法によるものかはわからんが恐ろしく頑丈に作られているらしい。 (この世界にはこの世界の単位というものがあるわけだがまどろっこしいし、こちらの方が分かりやすいので長さはメートル、重さはグラム単位で書かせてもらいます) ルイズはこれくらいのゴーレムを見たことがあるのか案外冷静なようだが、私は動揺していた。 今の私のサイズからすれば30倍以上のでかさがあるんだからな。 スタンドの視界を使って見れなったら相手をするのは勘弁して欲しいと思っていただろう。 まぁスタンドの視界で見たって戦う気はあんまりしないが。 「ルイズッ、あの塔を襲ってるってことはお宝狙いかっ?」 「アンタ、ご主人様を呼び捨てなんて…「今はそんな「分かってるわよ! でしょうねッ! あんなゴーレムを作り出せるのは最低でもトライアングルクラスの実力を持つ土系のメイジよ」 風で舞った土が目に入らないよう腕をかざすルイズの怒鳴り声を聞きながら、マジシャンズレッドを風除けに立たせ続ける。 なんせ30メートルの巨体が動き続けるんだぜ? 拳を塔に叩きつける衝撃は結構なもんだし、何よりやつは土でできている。 塔を殴った衝撃が野郎の体から少し、また少しと土を落として、それが私達に降り注ぐんだ。 私はまた飛んできた土を被るのをマジシャンズレッドを使って防ぎながら、このゴーレムを作ったやつのことを考える。 魔法学院の宝物庫を狙うような盗賊。それも土のトライアングル以上… 私には一人心当たりがあった。 シエスタ…前ゲーシュに絡まれていた所を助けた脱ぐと凄いメイドから聞いたんだが、 貴族が大事に持っている秘宝、特に稀少なマジックアイテムを好んで狙う派手好きな盗賊がここトリスティンに出没しているらしい。 今まではアルビオン中心に活動していたが、アルビオンで戦争が始まり今はトリスティンを中心に活動していると思われる。 思われるってのは、つまり官憲はフーケを捕らえられていないし、どの程度の情報が入っているか私の耳には噂話でしか入ってこないからだ。 一応新聞みたいなのはあるらしいんだが、完全に政府の管轄だからホットな話題は噂話の方が正確な場合もあるって話だ。 「まさか「こんなことをするのは土くれのフーケねッ! 平民以下の盗人風情がッ!!」」 引っかかりを覚える見下ろした発言にルイズを見上げる。 わなわなと、怒りに震える杖をルイズは掲げていた。 コイツ、何をするつもりだ? まさかと思ったが、その時にはもう遅かった。 ルイズは得意の魔法?『爆発』で横殴りを行った! …守る対象であるはずの塔の壁へとだが。 30メートルのゴーレムが繰り出す拳を何度かぶち込んでも傷一つつかなかった塔の壁には、今は大きくひびが入っていた。 あともうちょっと押し込めば崩れそうな、そんな状態だ。私は舌打ちしてルイズを怒鳴りつける。 「ルイズッ、テメェには無理だ! 逃げるぜ!」 「…嫌よっ! 盗賊相手に背中を向けるなんて!」 貴族としての誇りか? ルイズは塔を破壊したことは後悔してるようだが、キッパリ拒否してまた魔法を唱えようとする。 「あんなでかい的を外す程度の実力で何言ってやがる!」 流石にカッとなって、私は思わずそうはき捨てた。 杖も取り上げて、マジシャンズレッドでルイズを抱えて距離をとる。 「カメナレフッ!離してッ、ご主人様の命令よ!!」 「黙ってろッ」 怒鳴るルイズへ叫び返してその場から飛び退く。 鬱陶しそうにゴーレムが脚を動かし、草を含んだ土の波がルイズが立っていたあたりを覆った。 土煙が舞って、視界が塞がれて行く。 ルイズを離すとまたゴーレムに向かってくのが目に見えたんで、私はルイズを抱えたまま距離を取らせ、ゴーレムの動きとメイジを探した。 メイジはすぐに見つかった。 ゴーレムの肩の上辺りに漂う、深緑のローブで体を隠した奴が、多分フーケだ。 だがしかし…私はフーケを見て何か頭に引っかかるものを感じた。 「下ろせって…言ってるでしょ!」 至近距離で爆発が起きるッ。 奪っといた杖を引ったくり、ルイズの野郎!、私へ容赦なく魔法を使いやがったッ! スタンドだからよかったものの、結構な衝撃だ。 マジシャンズレッドは衝撃を受けてルイズを離し、地面を転がっていく。 私も亀の中で2回転ほどしちまったぜ。 この間に攻撃をされたらかなりまずいことになっていたが、その心配はないようだ。 ゴーレムはひびの入った壁を殴りつけ、そこへフーケが入っていく。 それを見て血相を変えて走り出したルイズを、私はもう一度マジシャンズレッドで拘束した。 取り返されないように今度は杖を後ろに投げ捨てて、だ。 塔の中からフーケが出てくる。 目的のものは手に入ったらしく、笑みを浮かべた唇だけが見えた。 その時だった。上空30メートルだ…亀の居る地上5cmとかよりもずっと風が吹いてんだろう… 突風が吹いてローブが少し捲れた。 それは後から聞いた話じゃあタバサって奴のドラゴンが近くを飛んだかららしいんだが…ともかくちょっぴり捲れたんだ。 で、私の視界からなら脚が見えた。 スタンドの目も普通の人間よりはよかったんでな。 私にはバッチリ『ふともも』が見えた。 「あの太もも…まさか『マチルダお姉さん』!?」 じょ、冗談だと思うかも知れねぇ。 だ、だが間違いない…あの薄っぺらいルイズとかまだまだ修行が足りないキュルケなんてもんじゃねぇやわらかいムチムチ太ももはマチルダお姉さんだ! 間違いねぇ! 悠々と去っていくゴーレムとメイジを見送りながら、私は、『だがなぜだ?』と疑問で頭がいっぱいだった。 テファにお金を送ってくれている優しいお姉さんだったはずだが、まさか盗賊をして稼いでいたのか? それとも…前にちらっと聞いた話。 ブリミルの子孫である王族がテファの母親、エルフと愛し合っていたというスキャンダルを消す為に国王はテファも殺そうとした。 それを庇ったテファの父親の部下が、マチルダお姉さんの父親に当たり、そしてマチルダお姉さんはそのことを恨んでいるらしい。 テファが、いつだったかジョルノに相談しているのを聞いた話ではそうなっていた。 その腹いせもこの行為には含まれているような気が、私にはした。 私は妹の無念を晴らす為、青春を修行に捧げたんで、そう思うだけかもしれないがな… まぁそれは、今はいいさ。 今、私が…いや、ここはあえて俺と言わせてもらおう。 私はルイズをマジシャンズレッドに抱えさせたまま亀の中でポージングを行う。 レベル幾つかは私の気合から察してくれ。 俺が! 俺がやるべきことは一つ、そう…たった一つだけだ。 私の精神力が、高まっていく。 ポージングにより整う呼吸。 落ち着きを取り戻し、平常心に満ちた心はマジシャンズレッドの能力を高め、操作をより精密にしていく。 マジシャンズレッドの目が細められた。 このポルナレフは、所謂カメナレフというレッテルと貼られている…! 下種野郎なんでしめてやったギーシュは毎日ケティ嬢と仲がよさそうだし、胸が揺れすぎるんで思わず生唾ゴックンしながら胸革命を見るなんてのはしょっちゅうよ!! だが…! こんな私にも女性は胸だけじゃねぇって事くらいは分かる…ッ! 私の目がクワッと開かれた。 集中、大切なのはそれだ。 土くれのフーケだとおぉ! 違うねッ、あの太ももはマチルダお姉さんさ! その事は同士オスマンも、コッパゲール大使にもわからねぇ…だから、! 『この私が計るッ!(性的スカウターな意味で) 』 「…あんた、今なんか言った?」 ルイズから剣呑な声があがったような気がするが「は?」ととぼけて私は集中した。 ルイズの相手なんてしてる暇はねぇ、なんせもうマチルダお姉さんがどっかいっちまいそうだからな。 見えなくなる前にどうにか計り終えた私は心のHDに保存して、それからやっとゴーレムを追いかけていくタバサの竜の姿に気づいた。 学院の外へ逃げる30メートルのゴーレムを追う事は…まぁあれだ。できなくはない。 亀をマジシャンズレッドで投げまくれば可能だが、追う気はなかった。 マチルダお姉さんとはやりづらいし、ルイズが邪魔だ。 ルイズを連れてあのサイズの野郎を相手にするのは危険だからな… まだ暴れるルイズのことを考えないようにしながら振り返ると、ようやく品評会会場の連中が騒ぎに気づいたようだ。 ぞろぞろと学院関係者や警備の連中も駆けつけてくるのが見える。 盗賊フーケの手による盗難事件はこうして幕を開けた。 私は当初、私がやることはもうおしまいだと考えていた。 学院の奴らにも面子ってもんがあるだろうから生徒に任せるなんてことはねーだろうなと思ってたんだ。 事後処理中に学院長室に呼ばれたのも、ルイズからその時の話を聞く為だけだってな。 だが、ルイズに説教をされたりしながら抱えられ、話をそれとなしに聞いていた私はそういうわけにもいかないことがわかってきた。 ルイズが大事に思っているらしいアンリエッタ王女。 国王亡き後は国の象徴的存在となり、多忙な日々を送っている彼女が品評会を観覧しに来たから、学院の警備を割かなければならなかった。 アンリエッタは、どういう関係かルイズのことを知っている風で、彼女の言い方では警備を割かせた自分にこそ責任があると考えているらしかった。 早急に王宮に報告しなければならない事を伝えて部屋を後にするアンリエッタを見て私の胸は痛んだ。 最悪、アンリエッタの責任問題になりかねない事位は私にも分かる。 国の象徴的存在って言葉と矛盾するかもしれないが、国民人気はそのままに、小娘には飾りで居てほしいってやつらもいるだろうからな。 それだけでも、ルイズは責任を感じてフーケを追う討伐隊に参加したがるだろうし、私もそれを手伝うだろう。 だが、私はルイズやアンリエッタ王女の事よりも一つの事が気に掛かった。 盗賊『土くれ』のフーケ。 彼女が盗んだ宝物庫に保管されていたモノの名は『破壊の円盤』。 …まさか、って感じだが、嫌な予感がするぜ。 * ポルナレフが嫌な予感をおぼえ、フーケを追う決心をした頃、ジョルノ達はようやく学院付近へと迫ろうとしていた。 馬車の中は、相変わらずイザベラとテファが応酬を繰り広げていたが、ジョルノは少しそれを止めて小さいケースを二人に見せた。 「所で、こんなものを流行らせようかと思うんですがどう思います?」 「何だいこれは? こんなシンプルな指輪が流行るもんか」 小さい箱に入れた状態で差し出された指輪を見て、イザベラは鼻で笑った。 ジョルノが見せた指輪は、イザベラが言うとおり、いたってシンプルで飾り気などない。 イザベラが見た所純金製らしいが、それだけで貴族に売れるはずもないのだ。 「私も、そう思うけど…ジョナサンはどう売るつもりなの?」 テファも同じ意見だったが、ジョルノの事だから何か考えがあるのだろうと思い、そう尋ねた。 リングのサイズを少し見て、左手の薬指に嵌める。 ぴったり、ではなかったが、一番その指がテファの手にあっているように思えた。 ジョルノはそれを見て、微かに不思議そうな顔を見せて、言う。 「バーガンディ伯のような男性向けの商品です。結婚する男女の、そう、婚約とか、恋人同士の口約束とかの印、とでも宣伝して売ってみるつもりです」 「ふぅん…」 テファはもう一度手を翳して指を眺めた。 恋人同士の、ちょっとした、二人の気持ちを形にした物。 そう思うと、時折目に入るこれは悪くないように思えた。 控えめだから、余り邪魔でもないし…テファだからそう思うのかもしれない、とは考えず「それなら、いいかもしれないわ」とテファは言った。 イザベラはそう言われて、ジョルノがちょっぴりだが、相好を崩したように感じてテファの胸を掴んだ。 意味は特にない。あえて言うと、なんとなくムカついたからだ。案の定テファは嫌がって身を捩ったりするが… 「ほ、本物…」 やっぱり本物でイザベラもちょっぴり衝撃を受けた。 ジョルノはそれを見ずに、そういう方向でちょっと売り出させる指示を出していた。 「ねぇジョナサン、これ…よかったら、くれない?」 「特に高い物でもありませんし、構いませんが…」 手紙を鳥に持たせて、窓から投げようとしていたジョルノは、テファの質問にそう返す。 そしてちょっぴりショックを受けてから手を引っ込めたイザベラに言う。 「クリスもいりますか?」 「え?」 本物…と、ほうけた様に言っていたイザベラは顔を上げ、ジョルノが取り出したもう一つの指輪を見た。 こちらも金で出来ていたが、少しだけラインが入っているタイプだった。テファとは違うタイプの指輪を見ながら、イザベラは少し考えるようなそぶりを見せた。 「そ、そうだね。私も持ってるなんて、いい宣伝になるかもしれないからね!」 ご機嫌取りには引っかからない、とも言って、あくまで仕方なく、気が進まなさそうな態度でイザベラは受け取った。 気のないそぶりで、自分の横にケースを置くイザベラと、面白くなさそうなテファを見て、二人の見えない所で、ジョルノは微かに笑みを浮かべる。 砂糖を吐けそうな顔の馬が引く馬車は、少しずつ学院へと迫っていた。
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舞踏会から数日後、朝早くにルイズは一人広場へ向かっていた。 そろそろ身支度をする生徒や一足速くアルヴィースの食堂へと向かう生徒達とすれ違うルイズの表情は浮かないものだった。 朝食は出ないが、先に向かい紅茶やワインなどを要求できないこともない… ルイズが今一人で広場に向かっているのは新しい使い魔を召喚するためだった。 使い魔は原則的には一度契約したら死に別れるまでメイジのパートナーになる。 その儀式はとても神聖なものとして扱われているけれどエルフとの戦争を始め、使い魔が死んでしまう事っていうのは前例が無いわけじゃなかった。 ポルナレフとは舞踏会の後も余り話せていなかった。 ルイズの方はそれとなく探してみたのだが、ポルナレフの方がその状態になかった。 まだマチルダが亀の中にいるというのもあるし、再会するまでの間に起きた出来事についてポルナレフはジョルノと話し合わなければならなかった。 イザベラとの一件を見ていただけにギャングの話は、激昂するマチルダを抑えながらでも最優先で話し合わなければならなかったのだ。 そんなポルナレフにジョルノが話したのは、麻薬だけでは金がすっからかんになりそうだったんで表の事業を広げているだとか、人材のスカウトと育成に忙しいとか、そういう話だった。 本当はそれだけではないだろうなとはポルナレフも思っていたが、今はジョルノを信じて確かめない事にしていた。 その場には、仕事を覚えようと張り切っているテファもいたから話にくいだろうと、ポルナレフは年上の余裕でもって察してやったのだった。 実際、この時はそれは外れてはいなかった。 スカウトした人材にこの学院のコルベールや卒業する生徒も入っているとか昨夜は幹部を拷問しましたなんて言えるわけも無い。 だがそんなことはルイズの知る由も無い事で、主人をないがしろにするポルナレフに対して更に怒りが沸いていた。 あの馬鹿、優しいご主人様がどうしても使い魔になりたいっていうなら許してあげようかと思ったのにどこで油を売ってるのかしら? そんなことを考えながらルイズが広場の傍まで来ると、なぜか目の下に隈を作ったマリコルヌがいて冷めた目で見下していた。 今までにも嘲笑われた事はあった。 ルイズのコレまでの人生はそればかりだったが…でもそれとは違うように、その時ルイズは感じた。 ゼロ(魔法が使えない)だからとかじゃあない、汚らわしいものでも見るような目だった…! 目の下の隈だけじゃない、脂肪たっぷりで気付かなかったけど良く見ればほんのちょっぴりこけた頬。 細い目でルイズを見下ろしながら、そのでぶは言った。 「なんだい? 視界に入ったからただ見下していただけなんだけどな」 「あんたなんかに見下されるいわれはないわッ! 大体、どうしてアンタがここにいるのよッ!!」 そう聞いた瞬間、マリコルヌの目が鋭い輝きを放ったようにルイズは感じた。 「僕のクヴァーシルが殺されたからだ」 簡潔に言ったマリコルヌはルイズを相変わらず見下ろして言う。 一気に十年以上も年を取ったような声だった。 「一つ言わせて貰うなら…(これは僕が使い魔を召喚する時の為にお爺様から聞いた話なんだけど) 優秀なメイジの中には最初はまだ未熟で使い魔を制御できない人もいるんだ」 「そんなこと、アンタに言われなくっても知ってるわ」 そんな事はルイズもこの学院に来て魔法を覚える為に自分で学習する過程で知っていた。 才能のあるメイジの中には、稀にはその時は未熟であるにも関わらず幻獣、例えばタバサのようにドラゴンを呼んでしまった場合もある。 使い魔は主人のいいように記憶を、脳内の情報全てを変えられる。 その効果は時間が経つにつれ強くなり、最後は一心同体となる。 だが高い知能を有する使い魔を呼んでしまった場合、すぐには認められないことがある。 極端な例を出すなら、犬っころを召喚したトライアングルの横でドラゴンの自分がドットの使い魔であることに不満を覚え反抗したりする。 それもルイズ達の見えないところでシルフィードがタバサに不満を言ったりする程度からそれ以上までだったが。 だが… 「その人達は自分を磨いて使い魔に自分を認めさせようとするけど、ゼロのルイズは新しい使い魔を呼ぶ。僕のクヴァーシルを殺した水のメイジが同じレベルのメイジなら楽なんだけどな」 油の浮いた唇を歪ませてマリコルヌはルイズに背中を向け、新しい使い魔を召喚しに行く。 マリコルヌにはクヴァーシルは氷に、ウィンディ・アイシクルのような魔法で殺されたことだけは感覚としてわかっていた。 夜の森に散歩に出ていたクヴァーシルに何があったのかはわからない。 殺されるような理由があったかどうかも、なにもわからないがマリコルヌにはわかる必要も無かった。 ただクヴァーシルのものと思われる食い荒らされた遺体がマリコルヌの瞼に浮かんでいた。 普段どおり手元においておけばあんなことにはならなかった… あの夜。夜の森には危険な動物もいるのにそんなことは考えずに今夜は舞踏会だしと、マリコルヌは羽目を外してしまった。 歯軋りをするマリコルヌの心は復讐へと傾いていた。 追悼する気持も無く悲しみを一人で整理する事も出来ず、マリコルヌはまだ見ぬ加害者を憎む事だけに専念していた。 そうしなければ、マリコルヌは精神のバランスを保つ事ができなかった。 ルイズへ吐いた言葉は、氷で殺されたから多分水のメイジと言う推理を正しいと信じ、学院にいる水のメイジ全てに懐疑の目を向けるだけに飽き足らず、 はけ口を求めわかったようなふりでその刺々しさをルイズに向けて撒き散らしているだけだった。 暴走が水のメイジとの仲を悪くすることには無頓着になり、ペットショップからは逆に離れていく事にはマリコルヌは気付けなかった。 そんなマリコルヌに見下されたルイズは、反感を覚えると共に酷くショックを受けていた。 一理ある。そう思ってしまったからだ。 魔法を使えることを証明し、皆に認められたい…だが、使い魔に認められず騙されたまま新しい使い魔を召喚して、はたしてルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは真に貴族と呼べるだろうか? 正しく…ルイズが今までに培ってきた正しいと考えるオーソドックスなメイジのイメージが、ルイズにそんな疑念を抱かせていた。 ルイズは疑念に囚われ使い魔召喚の儀式に向かう足を止めた。 新しく使い魔を召喚する羽目になったのはルイズの責任ではない。 元の飼い主が現れたし、亀の中の人に騙されていたし、そもそも契約も結んでいないのだ。 客観的にルイズは全く落ち度は無い。 他人が聞けばそういうだろうが、しかし…とルイズは思ってしまうのだった。 だが母ならこんなことには、と。 自分がゼロだから、こんな情けないことになっている…そうルイズは考えてしまっていた。 「あらルイズ。貴方まだこんな所にいたの?」 自慢のフレイムに乗り、隣室の(実家もお隣の)ツェルプストーに話しかけられ、振り向いたルイズの表情には迷いが浮かんでいた。 ポルナレフともう一度話し合うことを勧めに来たキュルケは、迷っているルイズの意地っ張りな性格を突付きにフレイムをルイズの所に進ませた。 宿敵であるツェルプストーの人間から言われた言葉に、ルイズは反発してしまうかもしれないと思ったが、キュルケはルイズを説得せずにはいられなかった。 * ところでそのルイズの使い魔だった男。 パッショーネ所有の亀ココ・ジャンボの中で眠っていたジャン=ピエール・ポルナレフ(享年36歳)は、金的に加えられた男性にしか理解できない強烈な衝撃で目を覚ましていた。 とてもいい夢を見ていたような気がする。 それは最愛の妹と暮らした日々だったかもしれない。 カイロへ向かうつらい旅の夢だったかもしれない。 だが、それが突然…言葉にできない痛みと共に現実へと連れ戻された。 「お…gッ」 痛みだの激痛だのというチャチなもんじゃない。 身もだえする事も出来ず、ポルナレフは床をのた打ち回る。 声にならない悲鳴を上げながらどうにか周囲を見回したポルナレフの視界に、グンパツな足が入った。 「何でアンタがあたしの横で寝てるんだいッ!!」 「………あ、姉さんが昨日俺に愚痴とか苦労話とかテファとの話とかをしてそのまま酔いつぶれたからだ」 「…え?」 丸くなりながら、ポルナレフはそれだけ言った。 妹を不本意な形で取られたマチルダは、学院にいる間は亀の中から出られないという事情もありストレスが溜まっていた。 ポルナレフは年上の男性として、それなりの人生経験からそれを察しストレス発散にと酒を飲みながら話を聞き、そのままマチルダは酔いつぶれたのだったが… 青い顔で蹲るポルナレフをマチルダはばつが悪そうに見下ろす。 なんでココにいるかとか、昨夜どうしていたかとか、冷静になり思い出したマチルダはポルナレフの背中を摩りはじめた。 「わ、悪かったね」 何か返事をしたいが、先程の返事だけでポルナレフの体力は限界を迎えていた。 痛みなどという段階を超越した苦しみに悶えながら、ただ痛みが引くのを待つしかない。 なんで魂だけなのにこんなに痛いんだよッ!!とか色々と疑問も浮かんだが考える事なんてできるわけがないッ!! それでも返事を返そうとしたポルナレフの口からうめき声があがる。 びっくりして思わず手を退いたマチルダは、更にもっとばつが悪くなりポルナレフの背中を笑顔で摩り続ける。 テファ達と朝食に向かう前に亀の中へと入ってきたジョルノは、そんな光景に出くわして… 絨毯に蹲ったまま空気の動きに気付き顔を上げたポルナレフと目を合わせた。 ポルナレフの体勢、マチルダの態度。 何より脂汗をたっぷり流し、笑顔を浮かべようとして失敗するポルナレフの切ない目が、何があったのかを雄弁にジョルノに伝えていた。 ジョルノは何も言わずに首を振ると、後で食事を亀の中に入れることを簡潔に次げて背を向けた。 ポルナレフはまた限界に達し、顔を伏せた。 「ああ、そうだ。ポルナレフさん」 「…?」 男の尊厳が砕けたかもしれないと本気で心配をし始めながらポルナレフは、背中を摩られながらジョルノを見る。 さっさといけよと八つ当たり気味に目を細めるポルナレフにジョルノは嫌味なほど爽やかに笑っていた。 「テファの事は、この際です。礼を言っておきます。ありがとう。お陰でテファの事は知られていないようです」 「き…きにす、すんな。俺が好きでやったことだから、な」 亀から出て行くジョルノを見送り、ポルナレフはまた蹲る。 状態は最悪だったが、先日テファを手伝った事が無駄ではなかったので気分は良かった。 「お待たせしました。じゃあいきましょうか」 「う、うん。姉さん、まだ怒ってた?」 「いいえ、ポルナレフさんと仲良くなったようですよ」 それは少し違うと言いたかったが、ポルナレフは歯を食い縛るので精一杯だった。 ジョルノが、いつか約束した通りテファとタバサと共に食事しながら、ヴァリエール家を始めとする懇意にしている貴族達や、商売相手からの手紙を読む頃。 「食事中は、止めた方がいい」などとタバサに窘められ、カトレアからの甘ったるい…しかし少なからずヴァリエール家の内部情報を含んだ手紙に目を通している時、二人が新しい使い魔を召喚することを聞きつけたのだろう。 ルイズとマリコルヌの新しい使い魔を見ようとしてか、暇そうなな学生達が何人か広場にはいた。 マリコルヌだけでなく、一旦は思い直しかけたルイズもいる。 キュルケの説得は、逆の効果をルイズに齎してしまい、ルイズは「別に新しい使い魔がいてもポルナレフに認めさせることはできるんじゃねーの?」と思い至ってしまった。 ルイズとマリコルヌは彼らと頭部からの照り返しがまるで太陽を雲で遮られたかのように和らいだコルベールに見守られながら、魔法を唱えはじ… 「あの、ミスタコルベール」 思わずルイズは尋ねようとした。 その頭部を見つめながら…コルベールは凄くイイ笑顔をしていた。 「なんですかな」 「頭「なんですかな?」い、いえ…」 笑顔のコルベールの凄味に負けた二人は同時に召喚を開始する。 魔法が失敗した時と同じようにルイズが唱え終わるとほぼ同時に爆発が起こった。 巻き上がる砂埃に紛れ、既にそんなことには慣れきっているこの場に居合わせた者達の目には二つの物体が吹き飛ばされ、広場に転がっているのが見えていた。 一匹は愛らしい子鳥。爆発に巻き込まれ羽は汚れ、気絶してしまっている。 もう一人は華奢な、変わった衣服を身につけ四角い箱を後生大事に抱えた人間の男。 こちらは気絶してはいないようだが、まだ状況がつかめないのが動けないでいた。 …ルイズは目を見開き、そして迷うことなく小鳥の前で膝を突き、口付けて契約を終えた。 そして誰かが口を挟む前に、鋭い声を発してコルベールに報告する。 「ミスタコルベール!確認を「ちょっと待て!?どう考えたってそれ僕の使い魔だよ!」 一歩遅れたマリコルヌの叫びをルイズは鼻で笑った。 手の中に納めた自分の使い魔を撫でながら、ルイズは言う。 「何バカなこと言ってるの?既に…ここにある確かなルーンが見えないのかしら?そうですよね。ミスタコルベール」 「ヴ、まあ…そ、それはそうだけどね?」 「で、でも…」 さっき嫌味なんか言わなきゃよかったと考えないでもないマリコルヌに目もくれず、ルイズは爆風で乱れた桃色がかった髪を手で梳きながら立ち上がる。 誰も、何も言えない。 もう契約は為されてしまいルイズに他の使い魔を与えるには小鳥を殺すしかない。 だがそれは流石にはばかられたし、この後マリコルヌがどうするのか皆着になっていた。 そんな中をルイズは堂々と小鳥を連れて広場を後にし、まだ気絶している人間とマリコルヌが…その場に残された。 マリコルヌは救いを求めコルベールを見る。 コルベールは何も言わず、首を振った。 使い魔が死んだら仕方が無いし、契約が済んでいない使い魔に持ち主が現れたら…まぁある意味仕方ないだろう。 神聖な儀式とはいえ、いや神聖だからこそ他人のペットを強奪して使役するなどという前例は残したくない。 それらのケースと召喚された使い魔が気に入らないからもう一度召喚させてくださいというのを同列に扱うわけにはいかないのだ。 そんなことを許可してしまえば、極端な事を言えば自分の気に入った使い魔が出るまで召喚を行う生徒だって出るかもしれない。 可能性の問題だが、それで毎年二回、三回と召喚をやり直す生徒が出てしまうような前例を残すわけにはいかない。 コルベールは、せめて速く終るようにとまだ状況がつかめていない見慣れぬ服装をした少年を拘束する。 余りの哀れさに、コルベールは溢れてくる涙を止める事が出来なかった。 だがしかし…それでも、心を鬼にして混乱する少年を拘束しなければならなかった。 ズッキューンッ!! 「や、やった! 流石風上のマリコルヌッ、俺達に出来ない事を平然とやってのけるゥッ!! そこに痺れる憧れるゥッ!!」 かなり奇妙な何かが重なり合った音と、おぞましい身も毛もよだつ絶叫。そして全くしゃれになってないが、茶化すような言葉が広場に響いた。 あ、ありのままいまおこったことをせつめいするぜ。 あきばからのーとぱそこんをかかえてかえろうとしたんだ。 そしたらとつぜんめのまえにかがみがあらわれてどこかにいどうしていた。 いつのまにか、からだはこうそくされていてまんとをつけたがいじんのでぶにきすされた。 …な、なにをいってるかわからねぇとおもうがおれにもなにがおこったのかわからなかった。 はじめてのきすはすきなおんなのこととかれもんのあじとかそんなあまずっぱいもんじゃだんじてなかった。 もっとおそろしいもののへんりんをあじわったぜ? To Be Bontinued...
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ジョルノ・ムラマァーサ/絶対無職 「このジョルノ=ムラマァーサには夢が無いッ!」 信念 男 笑・覚 200/200 【瞬/必】 登場時、場に存在する任意の『キャラ』一体を『属性:奇妙』に変えることができる。 解説
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アルビオンの各地でプッチの予想よりも遥かに素早く動いたガリア、ゲルマニア、ロマリアの軍勢が貴族派を蹂躙していく。 ロマリアから齎された情報を元にジョゼフ王が中心となって立案した侵攻作戦の前に、数の上でも劣る各地の貴族派は一方的に敗北していく他術がなかった。 ゲルマニアとロマリアはおろか、ガリアの将軍達でさえ驚嘆し、ジョゼフに畏怖を抱くこととなるこの作戦の結果が当事者であるはずのアルビオン王家や貴族派の幹部達の耳に届くのは全てが終わった後のことだった。 アルビオン王党派と貴族派の最後の決戦となるはずの戦場はそれ程混沌としていた。 王党派へと通告していた時刻通りに貴族派をアルビオンの端に聳え立つニューカッスル城へ完全に追い詰めていた貴族派は進軍を開始した。 王党派が立て篭もるニューカッスル城を包囲していた貴族派は、傭兵を中心とした5万もの軍勢が進軍するにつれてゆっくりと包囲を狭めようとしていた。 岬に立つ古めかしい城へと向かう彼らは自然雑然とした列を組み歩いていった。 彼らの顔には恐怖はなかった。彼我の戦力差を正確に知っているわけではなかったが群れの中に身を置き、包囲を狭めたせいで彼らが見上げる空は多数の戦艦で埋められていた。 そんな彼らを突然何処かから発生した閃光が包んだ。 制空権を完全に掌握し、憂いは残さぬと集められた貴族派の艦隊。 報酬や攻め落とした城からの略奪を目的に集まった傭兵達の列の半分以上が、その閃光と共に消失した。 それでも2万程を超える傭兵達が残されていたが、誰もがすぐに現状を認めることが出来ずに呆然とした。 彼らの前から消えたのは友軍だけであった。 熱もないただの光が一瞬だけ広がり、前にいた友軍を包み込み…彼らは姿を消した。 城まで続く整備された道に残された踏み潰された草花だけが友軍がいたことは事実であると訴えかけていたが、それでも残された貴族派は我が目を疑わざるを得なかった。 きょろきょろと周囲を見渡し、口を開いたまま言葉がでずに開いたり閉めたりして、名前も知らぬ隣にいる傭兵に何事かと尋ねようとして友軍がいた辺りを指さす。 目を必死にこする者、夢かと疑う者…地上でも空の戦艦の中ででも、同じ光景が見られた。 理解が追いつかない彼らの精神状態は、目前となった大勝利に高揚し、その後のご褒美を期待して舌なめずりをしていた彼らの心は一瞬の閃光と同じく、真っ白になり戦場へ向かうに当たって決めた心は消え去っていた。 動揺した貴族派の中からいち早く彼らを率いる盟主クロムウェル大司教の声を仰ごうとする者もいた。 だがレキシントン号で総大将を務めるクロムウェルも目の前で起こった馬鹿げた出来事に思考を停止させていた。 彼らを現実に戻したのは、耳障りな羽音だった。 戦場にいる貴族派は皆、羽音を耳にした。 先ほどまで全く聞こえなかった音は音源に近い場所にいる者達の鼓膜を破りかねない大音量で空にいる者達の耳にまで届いていた。 発生源を彼らは見る。王党派が立て篭もるニューカッスル城へと目を向ける。 貴族派の目の前でその時既に…ニューカッスル城は、黒い雲へと姿を変えようとしていた。 黒雲が何であるか、ふつふつと沸いてくる怖気を無視して彼らは注視していた。 そうして、逃げ出す貴重な時間を失った貴族派へと濁流のようにその雲を構成する毒虫達は襲い掛かった。 巨大な昆虫の群れがまず襲い掛かったのは徒歩で城へと向かう傭兵達だった。 その虫が何か理解したアルビオン出身の傭兵達は武器を投げ捨て、恐怖に染まった叫び声を発しながら我先にと逃げ出した。 アルビオンに住まう危険な生き物はオーク鬼やトロル鬼と言った亜人ばかりではない。 火竜山脈では火竜が我が物顔で歩き回るがその下にはサラマンダー達もその顔色を窺って生きている。 身の丈5メートル程もあるオグル鬼達が住まう山や森の中にも同じように、人の拳ほどの大きさを持つ蜂が住んでいる。 驚くほどの距離を飛び回る彼らは、蜂蜜を求めて現れた亜人を襲いかかり、硬い皮膚を物ともせず針を突き刺し、込められた毒でもって撃退しようとする。 抵抗かなわず巣を破壊される場合が多いが、その毒は針が刺さった位置や刺された回数によっては時にオーク鬼も死に至らしめる… 亜人達の半分にも満たない体格と抵抗力しか持たない人間がその蜂に刺されればどうなるか…アルビオン出身の傭兵達はそれをよく知っていた。 外国から流れてき傭兵が、叫び声に驚いて持っていた銃の引き金を引いた。 パンッと彼らを正気に返らせる一発の銃声が鳴った。 その耳が痛くなるような銃声で我に返った者達の手によって散発的に銃声が響き、羽音にかき消されていく。 一匹二匹が千切れ飛び、弾を込めなおす前、あるいは杖を振るい魔法を唱える前に彼らは波に飲まれていった。 悲鳴を上げながら彼らは一刺し二刺しと針を、牙を突き立てられていく。 放っておいても確実に死に至る猛毒を注入された彼らは次々に倒れていった。 土気色になり、口からは泡を吹く死体で城へと続く道を埋めていく頃、同じく船員を失い落下していく船の間を抜けて突き進む一頭の竜がいた。 船の周囲を飛び回る竜騎士達の中でそれに気付いた者は少数だった。 皆恐慌に陥ろうとしていた中でまだ戦意を保ち、まだ敵の動きを…数え切れぬ虫達の隙間を、城の跡から飛び立つ一匹の竜の動きを見つめる冷静さを持つ者は貴族派の軍にもそうはいなかった。 逆に言えば、気付いた者達は一騎等千のメイジだったろう。 だがそんな彼らも彼らに及ばぬ平凡な騎士達と一緒くたに突然暴走した、己が乗る竜から振り落とされて空の一角を埋めようとする黒い濁流の餌食となっていった。 己の騎士を墜落させた竜は、それらを全く意に返さぬ様子で貴族派の盟主、クロムウェル大司教がいるアルビオン最大最強の船、レキシントン号へと向かっていった。 竜達の中心には、彼らが振り落としたメイジ達が見つけた一匹の竜の姿があった。 竜の背で『ヴィンダールヴ』の紋章を輝かせていたサイトは、自分の操る竜『アズーロ』に乗せて運ぶ男の顔を見ぬように、自分の行っていることの結果を気付かぬ振りをしてレキシントン号へと我武者羅に突き進ませていた。 どうなるかなど冷静に考えればわかっただろうが、突然の事態にサイトはそれを考える余裕と勇気を喪失していた。 風を切り雲を抜けて敵艦へと近づくにつれて、時折応戦しようとする敵艦が放った大砲の弾が向かってくるがそれにも方向を変えるどころか避けようとさえさせない。 危険な砲弾は全て、サイトが慕う亀…の中にいる男が操る炎が瞬時に溶かして無害化していた。 溶けた砲弾が後ろへと流れていくのを冷や汗を流して見送るサイトの耳に、その亀を抱えた若い、まだ少年と言っていい高い声が届く。 亀の中から尋ねられて返事を返しているらしかった。 「最初は道端に生える草や花を生み出すことしかできない能力だった。しかし、僕が成長するにつれ、木を…蛙を生み出せるようになった」 耳を両手で押さえ、塞ぎたくなる程の羽音の中でもその声はよく響き、不穏当な内容であろうと不思議と心地よくサイトの耳には届いた。 「今では数万匹を超える虫も生み出せる。生み出す能力なのに数が増えて成長していると考えるのはおかしいが、とにかくこの程度だ。 …いずれは全ての生物を生み出し、思いのままに制御できるようになるだろう。楽しみだ…だんだんと成長していることが実感できるのはな…」 「そ、そうなの…」 亀の中から、まだ彼もショックを受けているのかいつになく気弱な相槌が返された。 それに気付いてか、今度は軽い調子で少年、ジョルノは言う。 「まぁそれはいいんです。逃げられない内にレキシントン号へ突入しましょう。サイト、君が操れる竜は全てあの船の足止めをさせてください。なんなら体当たりでも構いません」 背中からかけられる声は口調こそ丁寧だ。 だが拒否権など竜の手綱を持つサイトになく、竜にサイトの右手の甲で輝く『ヴィンダールヴ』の紋章を使うのと同じような効力がある。 サイトは気弱な、どこか心ここにあらずといった返事「ああ…」という言葉をジョルノに返した。 言われたとおりに操られた竜が背中の主人など全く気にせずに自軍の船へと突撃していく。 サイトの頭には今のこの戦場を作り出す切欠を作り出した少女…見たこともないような魔法を使い敵軍を消し去り、倒れてしまったルイズのことが浮かんでいた。 『ルイズはなんかおかしかった。アイツ、どうなっちまったんだ?』 それだけではない。 この能力をサイトに与えた枢機卿の視界で、ルイズの爆発魔法をきっかけにして枢機卿は他国の軍隊を率いてこの国へ進行を開始していた。 『ルイズを利用したってことなのか?』 思い悩むサイトの後頭部に何かが当たった。 後ろに乗っていたジョルノが頭をぶつけてきたのだった。 コロネでなかったのが幸いだが、サイトは何故かドキッとして背筋を伸ばした。 「今は悩むな。(どうなるにしろ)枢機卿の動きに対抗するにはウェールズの協力が必要です」 「だ、だけどよ…」 「焦りは禁物だ。先ずはルイズが望んでいた通りウェールズを助けるぞ」 「…! わかったぜ。ジョナサンあの船までは、俺が連れてってやる」 ルイズの望んでいた、その言葉はサイトに抜群の効果を齎した。 ルイズがウェールズを説得した姿を思い出したサイトの表情はキリリと引き締まり、手の甲の輝きは彼の気持ちに呼応するかのように更に強く輝き始めていた。 ジョルノの意思によってか虫達はサイトが駆るアズーロの進路を妨げはしなかった。 黒光して蠢く黒雲のトンネルを抜けて、アズーロは進んでいく。抜けると全長二百メートルにも及ぶ巨大な船が彼らの前に姿を見せる。 アルビオン王国軍の旗艦が反乱を起こしたレコン・キスタによって接収され、レコン・キスタ初の戦勝地の名を付けられた当代一の巨大戦艦。 二百メートルにも及ぶ船体には、両舷あわせて108門の大砲を備えるほか、竜騎士隊の搭載機能すら有するレコン・キスタの力の象徴ともいえる存在は、この戦場全てがそうであるように混乱の極みにあった。 自軍の竜に取り囲まれ、砲台がせり出すはずの窓には本当に竜にカミカゼアタックをされたのか首の見えない竜がじたばたと手足を動かしている。 未だ大砲が散発的に放たれているのか大きな音が耳に届いたが、大した成果はあがっていないようだった。 竜の背中で輝く光に照らされて、レキシントン号の周囲を飛んでいた竜がまた新たにレキシントン号の甲板へと急降下していく。 それを防ごうと、数十人のメイジ達が甲板へと飛び出して杖を振るっている姿も見えた。 迎撃され、墜落していく竜の姿。運悪く甲板に墜落した竜がメイジをひき殺していく様に凄惨な光景にサイトは唾を飲み込んだ。 瞬間大砲の音が鳴り響いた。空中で停止する竜の背で輝く怪しい光を目にした誰かが、砲撃を行ったのだと気付く間もなく砲弾がアズーロを襲う。 しかし、「マジシャンズ・レッド!!」 アズーロへと直撃する寸前に突如吹き上がった炎が砲弾を完全に溶かした。 マジシャンズ・レッドを操るジャン・ピエール・ポルナレフにとってはタイミングさえ分かれば砲弾を溶かすことなど容易いこと。 亀の中で真剣な表情で佇む男の中にも腑に落ちない点は多々あった。 ルイズのこと。この地獄絵図と化した戦場。 だが葛藤はなかった。 今優先すべきはこの機に乗じて王党派の勝利に向けるべきだ。 既にそう決めたポルナレフは漆黒の意思を宿した目を場に飲まれて竜を止めたサイトへと向けた。 「気を抜くんじゃねぇ!! サイト、一気に行くぜ!!」 「お…おう! まかせてくれ!!」 強い意志を秘めた声に背中を押され、サイトは再びアズーロを駆りレキシントン号へと向かう。 混乱の極みにある甲板へと一直線に向かう彼らを止める術は貴族派にはなかった。 勢いを増した竜と虫の群れにメイジ達は忙殺され、命を落としていく。 そんな中で、サイトはアズーロをレキシントン号の甲板に着陸させた。 「ポルナレフ。狙いはクロムウェルとその指に嵌められた指輪だ…!」 「ああ! サイト…迎えは頼んだぜ!」 サイトは頷き、ジョルノと亀を甲板へと下ろす。 ジョルノを下ろす為に一層激しくなった虫の群れに襲われる貴族派には目もくれず、ジョルノは甲板に手を触れた。 「ゴールド・エクスペリエンス」 羽音にかき消された呟きと共に空いた穴から、ジョルノは船内へと浸入した。 それまで甲板であった数匹のサラマンダーと共に。 偶然降り立った通路に居合わせた船員が叫び声や、侵入者がいることを仲間に伝える暇も与えられずに、サラマンダーが吹いた炎によって消し炭にされる。 パッショーネの上客からレキシントン号の図面を手に入れていたジョルノは迷いのない足取りで走り出す。 貴族派の総司令官クロムウェルの現在の居場所ばかりは知りようもないが、ポルナレフと二手に分かれて探すのは危険だった。 離れていては虫に襲われてしまうであろうし、何よりそれ程多くはない探す場所を知るのはジョルノだけだった。 既に大砲を出す穴から虫達が船内に侵入している。 甲板から進入する際に行ったように、ジョルノが触れた物が巨大な蛇や蜂へと姿を変えて船内を飛んでいく。 風石さえ無事ならば船は浮いているはずだが、火薬庫に火が付いてしまう可能性もある。 抵抗の度合いを測りながら、貴族派のメイジ達が追い込まれていくであろう場所へジョルノは走っていく。 また床を生物へと変えて、一階下の目指す場所へと続く通路へと降りたジョルノは銃を構えた。 プッチ枢機卿から貰ったAK小銃の有効射程はレキシントン号の全長の3倍…今のジョルノならば仮にこの船の端から端、どのような強風の中でも標的を仕留め得る。 銃を構えた左手に輝く『ガンダールヴ』の紋章がジョルノを歴史に名を残すエース達と並ぶほどの腕前をジョルノに与えていた。 ジョルノは引き金を引いた。 一発の銃弾が放たれ、クロムウェルを背中から貫こうとする。 だがそれは、傍に立つ衛士隊の服を来た男によって防がれた。 安全な場所へと逃れようとするクロムウェルの護衛の一人が音もなく降り立ったジョルノに気付き、振り返っていた。 外でも船内の一部でも羽音が響き、断末魔の悲鳴が時折聞こえてくる。 にも関わらず、防がれた銃弾が弾き飛ばされ床に深くめり込む鈍い音は彼らの決闘の場所へと変わってしまた廊下に良く響いた。 「ワルド!! テメェまだ生きてやがったか…!」 「やぁ兄弟。元気そうで何よりだ。私はこの通り、代償は払ったがね」 帽子を深く被ったワルドは親愛の情を込めた笑顔を亀に向け、杖を持たぬ方の手をグリフォンの意匠が施されたマントから出した。 その腕は、前腕の半分程で途切れ血で赤く染まった包帯で巻かれていた。 「ジョナサン。君の蛇に噛まれてね。毒蛇と思い慌てて切断したよ」 「いい判断です」 細い、ぴったりとした黒いコートを身にまとっている女性に縋り付きながら、クロムウェルがジョルノを見た。 半狂乱に陥っているのかクロムウェルの目は正気とは思えぬ光を放っていた。 ジョルノと視線を絡み合わせたクロムウェルは、悲鳴を上げて女性の後ろに隠れた。 「な、何をしておる! 早く奴を片付けんかっ!!」 「御意に…」 護衛のメイジ達が必死の形相で杖を構え、クロムウェルの盾となって亀と銃を抱えたジョルノの前に立ち塞がる。 ジョルノを片付け、早く安全を確保しなければならない彼らは必死だった。 ジョルノを守るようにポルナレフのマジシャンズ・レッドが傍らに出現する。 頼もしい火を吹く鳥頭人身のヴィジョンに目の前で敵が呪文を唱えていく中でジョルノは薄く笑みを浮かべた。 亀の中を覗き込めば、心配そうに、だが魅入られたように自分を見あげるテファと、加勢しようと言うのか杖を持ったウェールズを押え込みながら力強く頷くポルナレフの姿が見えた。 頷き返したジョルノの目の前でいち早く杖を構え、呪文を唱え終えたワルドが数を増やしていく。 続いて、護衛のメイジ達が生み出した炎や氷や、風の刃が放たれようとしていた。 「アンタ達。(一応聞いておきますが)覚悟してる人、だな? 僕を邪魔しようというのなら、逆に始末されるという危険を覚悟している人ってわけだ」 答えるメイジはいなかった。 だが彼らがジョルノに注意を向け手いる間に…その足元では新たな命が生まれようとしていた。 先ほど防がれ、彼らの足元にめり込んだ銃弾に込められた生命エネルギーが銃弾を一瞬にして巨木へと変えていく。 突如出現しようとする巨木に、杖を構え、今正に魔法を撃とうとした護衛達が更に理性を失っていく。 飲み込まれながら放った魔法はどれも見当はずれな方向へと消えていく。 運悪く巻き込まれたのか、クロムウェルの狂ったような声へと向かい、ジョルノは歩き出した。 ただ一人冷静を保ったワルドが巻き起こす風が、巨木を切り裂き自由になろうとするのを尻目に、ジョルノはAKの弾を惜しんで懐からこの世界で作らせた銃を取り出した。 セックス・ピストルズと名付けられたシリーズの一つである回転式拳銃が弾丸を次々と発射して護衛のメイジ達を殺害していった。 「ジョナサン…ッ貴様ァァァッ!!」 足掻くワルドに向けられるジョルノの瞳は何処までも冷たく、鋭い輝きを見せ彼らの形相にも眉一つ動かさなかった。 薄く浮かべた笑みの爽やかさも変わりはしなかった。 To Be Continued...
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性別:女 所属:なし 職業:ドッペルゲンガー ムスタング・ディオ・白樺の分身。 特異点制御 「不眠妖精」によって作られた分身が活動を続けたすぎたため個々の人格を持つようになった存在。複数人存在するが個々の記憶は共有せず記録としてのみお互いを認識している、常にジャガー・ジョルノ・蘭は一人までしか存在しない。不老であるが不死ではない、特異点としての形質を若干ながら持つがそれは自我が確立されるに連れて失っていくことになる。 ムスタング・ディオ・白樺は彼女の存在をひた隠しにしており、自分の能力の汚点だと認識しているが、彼女自身は大切な友人であり、行動をよく共にする。何人もジャガーを自分の為に犠牲にしたことを後悔している。 常にパジャマでいて、すぐに寝れるように備えている。枕もよく携帯しており、どこでも寝てしまう。それはジャガーがムスタング・ディオ・白樺の夢から生まれた存在であることの名残である。 よく指をしゃぶっている。
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> ̄ゝ_, _ /フ / ノノ人 弋彡 z=メ z=ヾ, ヽ フ .〃ヾニソヾチ,,,_ ゝ _ .==== ゞ_ゞソi=゙ /zチ ∨ヽ! / `ヽ _`ヽ, __/メ, チ ソi / __ ヽ 丶.,ヽヽ /ミ二ニ゙ ´~,-‐ ., ヘゝ, __ i丶 / 〉 , ゝ‐-ミ,.i i,,__ iヽ‐゙ ヾ ヽミ‐-z丶、 / 〃//トメ ヽ ! ヾ, `゙ / , ― .,ヽ/| l ∨ `ヽ‐゙~ ―゙--ミ _/ヽ 〃_ヺ / ヽ ヾヽ, `ヽ ,' ', .〉`ヽ|ミ丶/ __,,,,>| .∨ゝ / i, 〉,_`ヽi i イ.|ii iヽ Υ .// /~フ ̄ /〈 ._,,,,,| / ヾ`ヽ―=― ~ `ヽi/ ii .〉|,-‐゙ / / ,' ./ \ / ヽ ト _ / .iヽゝ, .i.i r―, i//./.|/ \ | ヽ 〈, .<´/寸,\\ 丶 .ト., i`ヽ,/z===i-,゙ ‐ゝ _ヽ‐゙.// / , >-| ∨ iゞゥ/ ∧ ヽ ゝ`i`ヽ_,,,,_`ヽ⊃`ヽ`ヽ_r―`´ i /├゙ゝ_/ / .| i i >‐ ゙ / ヽ 丶━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ゴールド・エクスペリエンス!━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ルイズに紹介してもらった協力者その2、回復術に長けている。 協力者時の能力は やらない夫の攻撃後、体力を【6】回復してくれる。
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あ、ありのまま今起こったことを説明するぜ! お、俺達はラ・ロシェールから予定通り出港したと思ったら海賊に襲われたがそいつらは王党派で、すんなり王党派の最後の拠点であるニューカッスル城についちまった。 な、何を言っているかわからないと思うが俺にも何が起こったのかわからなかった… 孔明の罠とか既に条件はクリアされたとかそんなチャチなもんじゃねー。 もっと恐ろしいコネの恐ろしさを味わったぜ! 「…ポルナレフさん」 「なんだよ…」 背中にかけられたため息交じりの声に、俺は肩越しに視線をやった。 俺の寝床でもあるソファに深く腰掛けた黒髪の成金野郎が太ももがグンパツのお姉さんと胸がありえないエルフの美少女を左右に侍らせているのが目に入り、俺の目はごく自然に細くなった。 船員達への指示を終え、部屋に戻ってくるなり亀の中に引きこもりにきたジョルノだ。 一瞬、『DIO』の野郎と重なった印象を俺は振り払う。 そうすると髪を染めたその顔立ちは、俺と共に旅した戦友の一人、空条承太郎と…いや、あるいはその祖父ジョセフ・ジョースターとよく似ているのかもしれねぇが。 「何の為に王党派と貴族派の両方に顔の利く元アルビオン空軍高級仕官の方々をわざわざ船員に選んだと思ってたんです? 単に海賊対策なら、もう少し安くつきます」 「今は話しかけるんじゃねぇ。この庶民の敵が!」 俺は思わず怒鳴りつけていた。 この船自体コイツが用意したものだから我ながら酷い言い草だとは思わなくもない。 だが金と金で購入した権力を使い揃えた亡命アルビオン貴族達を使いあっさり到着って… 「テメェッ! かなり危険な任務じゃあなかったのかよッ!!」 「やれやれ…」 俺の叫びには亀の中にいる皆も同じ気持ちらしく、新参のミキタカはおろかテファまでが少し怒ったような目でジョルノを見る。 特にマチルダ姉さんの形相と言ったら、俺に体があったら逃げてるね、って勢いだぜ。 だが冷たい視線を受け止めたジョルノの表情は驚くほど爽やかで、照明の科学的な光を真っ黒に染まった艶やかな髪で反射させていた。 俺の中から、少しだけだが、怒りが薄まる。読んでいた本を軽い音をさせて閉じて、一瞬だけテファに一瞥を送ったのを俺は見逃さなかった。 「ルイズのことも頼まれていますし、アンタ達を泥沼の内乱状態の所に行かせるとわけがないでしょう」 「本物の海賊の時はどうする気だったんだい?」 最初俺と同じく不満そうな顔をしていたのに、今はもうどうでも良さそうな顔をして寛いでいたマチルダ姉さんが、ジョルノに尋ねた。 毛繕いをするペットショップ以外はどう答えるのか気になり、ジョルノの返事をじっと待つ。 ジョルノは一瞬呆れたような顔を見せた。 「…パッショーネと関係がある船を襲う程間抜けじゃあありませんよ」 チッと俺は舌打ちをして冷蔵庫に入れていたワインを取り出す。 マジシャンズレッドの手刀でワインのコルク栓のちょっぴり下を切らせた。 トリスティン産の、名前は忘れちまったが結構有名な産地のワイン…つまり結構値が張るらしいんだが、今だけは知ったこっちゃねぇと水代わりに飲み干す。 ったく…貴族派の囲いを突破し、戦火の中を潜り抜け、一人に二人と犠牲さえ払って泥だらけになってここに来ることになるかと思ったが、そんなことはなかったぜ! 悪態をつくポルナレフから視線をはずしたジョルノは再び本を読むふりをしながら 「ジョナサン。これはなんて読むんです?」 考えごとを始める前にミキタカが開いたページを見せに割り込んできた。 学生らしく勉強中のミキタカは簡単な本を読んでいるようだが…ジョルノはミキタカが指差して示す一文を見て答える。 「直訳は〝皿の上のミルクをこぼしてしまった〟〝です。慣用表現ですから〝取り返しのつかないことをしてしまった〟という意味になります」 「おお! つまりは"耳にたこができる"だとか"ここのストロベリー&チョコチップアイスを舐めながら登校するのは嫌いな月曜の朝の唯一の心の慰めなのによぉ~"と一緒ですね!」 「…二つ目はどう考えても月曜の学生が大げさなこと言ってるだけでしょう」 どーでもよさそうに、あるいは、出来るだけ関わらないようにしているとも受け取られかねない素っ気ない口調で返す。 だがジョルノの隣でハツカネズミをなぜていたテファは興味をひかれたらしい。 ソファの後ろに立つミキタカに振り向いた。 「ストロベリー&チョコチップアイス? それっておいしいの?」 「はい億康さんと丈助さんとよく買ったものです……舐めたいですか?」 懐かしむように言うミキタカに丈助と憶康って誰だよとワインの瓶に口をつけたままポルナレフは目で尋ねていたが、そちらは無視らしい。 ミキタカはテファに尋ねた。 「え?」 「ねぇ? なめたいんですか?」 戸惑うテファをのぞき込むようにしてミキタカはもう一度言う。 顔を近づけられたテファは、腰掛けたソファの空いたスペースの上に仰け反って逃れていく。 一緒に重力を無視して持ち上がっていく胸を見ていたポルナレフは少し前かがみになった。 それは鬼の形相となったマチルダが一瞬で距離を詰め、肘を眉間に叩き込むのに実にいい位置だった。 鈍い音だけがあがる…悲鳴も上げずに崩れ落ちたポルナレフの持っていた酒瓶を、中身が零れる前にマチルダは奪い取った。 そのまま残りを飲み干す豪快さに乾いた笑いを浮かべてから、テファはミキタカに返事をした。 「…う、うん。でも二人の故郷の話だし」 「そうですか!ちょうど2本持ってました……面倒を見てくれるせめてものお礼としてお受け取りください」 ジョルノ達の体が一瞬硬直した。 ミキタカが(そもそもそれをどこから持ってきたのか不思議だったが)いつの間にか抱え込んでいた薄っぺらい鞄の中からストロベリー&チョコチップアイスを2つ取り出していた。 上にストロベリー、下にチョコチップを見事に二段重ねたアイスがテファに差し出される。 「ちょっと待て。なんかそれおかしかったぞ!?」 間髪入れずカーペットの上に転がっていたポルナレフが突っ込みを入れるが、テファはそんな反応こそ妙だとでも言わんばかりに首を傾げてアイスを受け取った。 彼女にとっては、亀の中にはいれるのだから今更鞄から冷えたアイスが出てこようがさほど驚くことではないらしい。 「つ、冷たい…」 「上がストロベリー、下がチョコチップです」 「そうなの? …いただきます」 ひんやりしたアイスを袋から取り出し、ジョルノとマチルダの顔色を伺ってから口をつける。 「おいしい! とっても甘くて、ストロベリーって苺のことなのね! チョコチップは…不思議な味ね。初めてだけど、とてもおいしいわ!」 「そういえば、余りこちらでは見かけませんね…」 ポルナレフはそれを聞いて物欲しそうにミキタカを見る。 ジョルノは、新しいビジネスチャンスかもしれないと思案顔になっていく、ミキタカはポルナレフの視線になど気付いていない様子でもう一本を自分で食べ始めた。 挑発と受け取ったポルナレフが、マジシャンズレッドでアイスを奪いさる。 「ジョルノも欲しい?」 「え?」 だが今度はテファに呼ばれ、顔の前に食べ差しのストロベリー&チョコチップアイスが差し出される。 甘いものはジョルノも嫌いじゃあない。特にチョコは好物だったが、ジョルノは首を横に振る。 その時の視線の動きを見て、テファは歯形のついたチョコチップアイスとジョルノの横顔を交互に見た。 その後ワルドから、結婚相談を受けていたようだが、その手の相談はエレオノールとバーガンディの件だけで辟易したジョルノはさっさと逃げたので知らない。 ジョルノは片手でミキタカを払いのけながらアイスに齧り付く三十路のフランス人に一瞥を送った。 詳しくはジョルノも尋ねていない。 尋ねられた時、ポルナレフはソファをマチルダに占領され、床にクッションを持ってきて座っていた。 壁を背にし、立てた片膝で頬杖をついたポルナレフは不愉快そうに言った。 「お前の言いたいことはわかる。疑ってるんだからな。お前が言うんだからある程度確証もあるんだろうさ。だが…これは関係ない話だろう? 奴はただのロリコンさ」 「…いいのかいそれは?」 問題はその後、出立前になって街で騒いでいた傭兵達が襲撃をかけようとしていたことだ。 街の宿を経営する組織の人間から通報された情報によってそれは未然に防がれ、全員ペットショップの氷で串刺しになってもらった。 氷の塊でグチャッっとなった者達もいたようだが、『逆に始末されるかもしれない覚悟』を決めていたものと見ているジョルノは特に気にしていなかった。 やはり内通者がいる。雇ったのは白い仮面の男。 マチルダを助けに向かった時に現れ、手合わせしたラルカスもスクエアクラスと断言した者に違いないだろう。 アイスを食べてご満悦の仲間達を置いて、ジョルノはソファから立ち上がった。 この後は、海賊船を装い船を襲って物資を得ようとするまでに落ちぶれた王党派の船の船長と会う予定だった。 「じゃあ僕はルイズ達と一緒に海賊船の船長に会ってきます」 「お、ああ。この亀を持っていってくれよ」 「はい」 「私も行っていいですか? 海賊船の船長がどんな人か興味があるんです」 ついてこようと自分からアイスを取り上げたポルナレフから放れるミキタカにジョルノは拒否する態度を見せようとする。 だがその前に、ミキタカの体がバラバラに解けた。 驚く皆の前で細い繊維へと姿を変えてジョルノの足に纏わりついていく…いつでもスタンドを繰り出せるようにするジョルノの靴に、ミキタカは完全に覆いかぶさった。 ジョルノが触って見ると、確かに靴の…牛革の感触がした。 「これなら大丈夫でしょう?」 「こんな能力があったんですか?」 「はい。私は大抵の物に変身できます」 騙されたような感じがして不満そうな顔をしたポルナレフが残りのアイスとコーンを口の中で租借しながら言う。 びっくりしているテファの手に、溶けたアイスがちょっぴり垂れた。 「食えない野郎だな…「食えない?? そんなことはありませんよ。今、手の一部をアイスクリームにもしましたよね」 「「「え?」」」 革靴になったミキタカのどの部分に当たるのかはわからないが、靴紐の部分が変形し、先ほどテファ達に渡されたアイスクリームへと変化する。 ひんやりしてて、甘くておいしそうなストロベリー&チョコチップだった…テファの手からアイスが落ち、床が汚れるのを嫌ったポルナレフが慌てて手で受け止める。 「でも『複雑な機械』や自分以上の『力』の出るものにはなれません…後人の顔に化けるのも無理ですね。私宇宙人だから人の顔って皆同じに見えるんです」 「…行ってきますね」 付き合いきれないと言いたげな顔でジョルノは亀から飛び出す。 すぐには部屋を出ずにジョルノは鏡の前に立つ。 ギャングスターになった頃に作ったスーツの一着を着た自分の姿を確認し、ボタンの位置を少し直してから床に転がっている亀を持ち上げ歩き出す。 外には既に準備を終えたルイズとワルドが立っていた。 二人は部屋からやっと出てきたジョルノを促し、先を歩いていく。 狭い通路を抜け、甲板に出ると船員と船を襲った海賊が和気藹々と言葉を交わしていた。 突風が吹きすさぶ中をよく、と風に流れる髪を押さえたルイズが小さな声でぼやいた。 行き来出来るほどの距離に二つの船を近づけ、船は雲の中を進んでいた。 彼らの腕に感心しながら三人は向かいの船へと乗り移る。 髪の毛はすっかり刈られてしまったので流れはしない。 そう、ほんの少しだけ気を抜いていたワルドの帽子が、その時風に吹かれて飛ばされていった。 泣きそうな顔のワルドに困ったように笑うルイズの後にジョルノは続いていく。 三人は海賊の格好をした貴族に連れられ船長室へと案内された。 客を待っていたのは、凛々しい金髪の若者であった。 変装道具の眼帯や髭などが机に置かれているのが目に入る。 海賊の服を着たまま、彼は威風堂々名乗った。 「私はアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官……、本国艦隊といっても、すでに本艦『イーグル』号しか存在しない、無力な艦隊だがね。 まあ、その肩書きよりこちらのほうが通りがいいだろう。アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」 ルイズは口をあんぐりと開けた。 まさかこうも簡単に目的である皇太子と出会えるとは思わなかったからか。 その表情はアンリエッタが愛する男が海賊の真似をしていることに唖然としているようでもあった。 ワルドは興味深そうに、皇太子を見つめており、ジョルノは普段と変わらぬ様子だった。 ウェールズは、にっこりと魅力的な笑みを浮かべると、ルイズたちに席を勧めた。 「アルビオン王国へようこそ。大使殿。さて、御用の向きをうかがおうか」 そう言われて、呆けていたルイズは目的を告げようとしたが、すぐには言葉にはならなかった。 それをどう取ったのかウェールズは悪戯っぽく笑った。 「その顔は、どうして空賊風情に身をやつしているのだ? といった顔だね。いや、金持ちの反乱軍には続々と補給物資が送り込まれる。 敵の補給路を絶つのは戦の基本。しかしながら、堂々と王軍の軍艦旗を掲げたのでは、あっという間に反乱軍のフネに囲まれてしまう。まあ、空賊を装うのも、いたしかたない」 「アンリエッタ姫殿下より、密書を言付かって参りました」 緊張して言葉が出ないルイズに代わり、ワルドが、優雅に頭を下げて言った。 「ふむ、姫殿下とな。きみは?」 「トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵」 それからワルドは、ルイズたちをウェールズに紹介した。 「そしてこちらが姫殿下より大使の大任をおおせつかったラ・ヴァリエール嬢と協力者のジョナサン・フォン・ネアポリス伯爵です」 「なるほど! 君のように立派な貴族が、私の親衛隊にあと十人ばかりいたら、このような惨めな今日を迎えることもなかったろうに! して、その密書とやらは?」 ルイズが慌てて、胸のポケットからアンリエッタの手紙を取り出した。 恭しくウェールズに近づいたが、途中で立ち止まる。それから、ちょっと躊躇うように、口を開いた。 「あ、あの……」 「なんだね?」 「その、失礼ですが、ほんとに皇太子さま?」 ウェールズは笑った。 ワルドも突然の失礼な言葉に驚いたが、逆にルイズらしいと笑い出す。 「まあ、こんな形だ、無理もない。僕はウェールズだよ。正真正銘の皇太子さ。なんなら証拠をお見せしよう」 ウェールズは、ルイズの指に光る、水のルビーを見つめて言った。 彼は自分の薬指に光る指輪を外すと、ルイズの手を取り、水のルビーに近づける。 二つの宝石は、共鳴しあい、虹色の光を振りまいた。 「この指輪は、アルビオン王家に伝わる、風のルビーだ。きみが嵌めているのは、アンリエッタが嵌めていた、水のルビーだ。そうだね?」 二つの宝石が生み出す虹に見とれていたルイズは恥かしげに少し頬を染めて頷いた。 「水と風は、虹を作る。王家の間にかかる虹さ」 「大変、失礼をばいたしました」 ルイズは一礼して、手紙をウェールズに手渡す。 ウェールズは、愛しそうにその手紙を見つめると、花押に接吻した。 それから、慎重に封を開き、中の便箋を取り出して読み始めた。 真剣な顔で、手紙を読んでいたが、ウェールズはそのうちに顔を上げた。 動揺した瞳が読み終わるのを静かに待つルイズ達へと向けられた。 ルイズはその手紙を書いたアンリエッタののことを思い出して苦しげな顔をする。 それだけでウェールズには衝撃的だったこの手紙に書かれた内容、既に苦境にある彼を苦しめる知らせが真実味を増した。 「姫は結婚するのか? あの、愛らしいアンリエッタが。私の可愛い……、従妹は」 ワルドは無言で頭を下げ、肯定の意を表した。再び、ウェールズは手紙に視線を落とす。 最後の一行まで読み終わるとウェールズは先ほどの動揺など微塵も感じさせぬ微笑を見せた。 「了解した。姫は、あの手紙を返して欲しいとこの私に告げている。何より大切な、姫から貰った手紙だが、姫の望みは私の望みだ。そのようにしよう」 ウェールズの様子に引き摺られ、暗く沈んでいたルイズの顔が輝く。 しかしながら、とウェールズは優雅にどこか芝居がかったような調子で言う。 「今、手元にはない。ニューカッスルの城にあるんだ。姫の手紙を、空賊船に連れてくるわけにはいかぬのでね」 そう語る皇太子は笑っていたが、「多少面倒だが、ニューカッスルまで足労願いたい」 告げた口調には微かに動揺が残されていた。 ラ・ロシェールから乗ってきた船と別れ、ジョルノ達を乗せた軍艦…『イーグル』号は、浮遊大陸アルビオンのジグザグした海岸線を、雲に隠れるようにして航海していく。 ウェールズはその間自由に船の中を歩き回る許可をルイズ達に与え、部屋で休むか甲板に出て他では滅多に経験できぬであろう雲の中を地形図を頼りに進む気分を味わうことを勧めた。 測量と魔法の明かりだけで航海するというアルビオン王立空軍の腕前に興味を惹かれたらしいワルドがルイズを連れて部屋を後にした。 ジョルノは残り、部屋の扉を閉めてからウェールズへと向き直った。 「ウェールズ殿下。折り入って貴方に話があります。人払いをお願いできますか」 皆部屋を出て行ったものと決め付け、もう一度アンリエッタからの手紙へと目を落としていたウェールズが顔を上げる。 申し出を受けるか否か、考えたウェールズは「…わかった」と応じて、部屋を出て行く。 すぐに戻ったウェールズはジョルノが先ほど閉じた扉を閉じて杖を抜いた。 洗練された優雅な動作で杖を振り、彼が唱えたのはサイレント。密談などに使用される魔法の効果はすぐさま現れた。 窓の外を流れる風の音や風に微かに軋む船体の音。船員達が各々の仕事を果たす内に自然と奏でられる様々な音が全て消えた。 「さて、話とはなんだ? まさかここで君が逆賊だったなどとは言わないでくれよ」 そう言ってウェールズは杖を仕舞う。 客に自分が先ほどまで腰掛けていた椅子を勧め、かつらや付け髭などを脇に寄せて自分は埃一つない机の上に座り込んだ。 椅子に腰掛け、亀を膝に乗せてジョルノは言う。 「用件は二つあります。貴方を始め王党派の貴族の方々に亡命をしていただきたい」 皇太子は直ぐには返答を返さなかった。 じっくりと亡命を勧める若い…彼が愛するアンリエッタより年下でありながら落ち着いた、余裕と冷静な態度が引っかかっていた。 「アンリエッタの願い、と言うわけではないようだね。何故だ?」 「公にはしておりませんが、今私の所で何人ものアルビオン貴族のご婦人達やお子さんを匿っています。彼女らには父親が必要だ」 ウェールズは痛いところを突かれたように表情を変えた。 真っ直ぐに向けていた視線を外し、部屋に飾られた海賊の雰囲気を醸し出す為のおふざけ…鳥かごを始めとしたガラクタの辺りに視線を漂わせる。 答えをすぐに返さなかった王党派の実質的な党首を更に悩ませる出来事をジョルノは言う。 「保護した方々の幾人かは売られる所でした」 「何だって?」 「平民が貴族に買い取られる話をご存じない?」 トリスティンのモット伯等、貴族の中には平民を慰み者にする為に雇い入れる者もいる… アルビオンでもそうした話があり、耳に入っていたのかウェールズの体に力が篭っていた。 「それと同じようなものです。襲われた方もいますし、その中には少年もいました」 ケアを行うのに夫や父親の力が必要なこともある。 ジョルノは椅子に深く腰掛けて、ウェールズの返事を待った。 机の上で唇を噛み、汗をかいている皇太子がどう答えるのか…動揺している様子を眺め、足を組見直す。 亀の中が騒がしくなっている。サイレントの効果で静かになった室内ではそれはとてもよく目立ったが、ウェールズにそんな暇はなかった。 「わかった。それについては、検討させてもらおう」 「殿下についてもです」 「私には王家としての義務がある。内憂を払えなかった王家に、最後に課せられた義務がな」 毅然として、言い放つ。 課せられた義務が死ぬことと悟り亀の中で誰かが息を呑んだようだった。 ジョルノの持つ覚悟とは違ったが、皇太子は既に覚悟を決めている事が見て取れた。 そんな相手に、「では」と殊更に冷たい声で告げる。 「私はアンリエッタ王女を暗殺するかもしれませんが、構いませんね?」 「どういうことだ…ッ?」 厳しい声と共に、腰掛けていた机から飛び上がるように降りる。 一瞬で気色ばみ、杖をまた引き抜いてジョルノの急所へと突きつける。 ウェールズの目には殺気が漲っていたが、身動ぎもせずに返事が返された。 「貴方が死ねば、貴方の従姉妹が仇討ちを考える位には情熱的だと言うことです」 突きつけられた杖が怯んだ。 苦々しい笑みを浮かび、そうした考えをアンリエッタが持つかもしれないとウェールズは考えた。 同時に、心の中にそれを望む気持ちがないとは言えない事も悟る。 だがトリスティンにはそんな戦力はない。更には、マザリーニ達もそれを許すはずがないのだ。 「トリスティンには…いや、まさか」 だが、返事を返す為相手を、ゲルマニアの貴族を見た瞬間に、ウェールズの脳裏に一つの新しい予想が生まれた。 それを見て取って更に表情を曇らせたウェールズに言う。 「四十の男一人籠絡すること位出来る。そう考えていますね?」 「できるわけがない!アンリエッタは…」 ウェールズの言葉は自分に言い聞かせているようだった。 心の迷いを写したように杖を持つ手が、小刻みに震えている。 「私はその可能性もあると考えています」 気が動転しているウェールズの心に無造作に、だが深く鋭くジョルノの言葉は突き刺さり…杖を持つ手を下ろさせていく。 凍りつく眼差しにじっとりとした汗が止まらず、真っ黒に染まった髪が、ウェールズの目には一瞬金色に輝いているように見えた。瞬きをする。輝きはやはり目の錯覚で真っ黒な髪だった。 「…ですが、私と付き合えばその不安も心の中から取り除ける。私と王党派の方々の力があれば、ゲルマニアとトリスティン。両国にとってより良いやり方で貴族派を打倒できる…」 シャツと首の隙間。透き通るように白い肌に、星型のあざが見えた。 妖しい色気と、「どうです? 一つ、私と手を組みませんか? 既に保護した方々、貴族派を打倒した後も今まで以上に力を貸しましょう」 囁かれる言葉にウェールズは、心が安らぐのを感じた。 危険な甘さに、恐ろしさを感じていた。 すると、不意にジョルノは不機嫌そうな顔をした。 アルビオン王党派を率いてきたウェールズを恐れさせた何かに、少年自身も戸惑っているような態度で、頭部に手を触れた。 「もう一度、次は貴方のお父上にお願いするでしょう。返事はその時に態度で示してくだされば結構です」 囁かれた言葉にウェールズは頷きもしなかった。 構わずに、ジョルノはもう一つの話を始める。 今の話で亀の中は騒然としていたが、「ところで殿下はプリンス・オブ・モードを知っておられますか?」 頷き、ジョルノが出した名前に愛しいアンリエッタのことで頭が一杯になっていたウェールズは我に返った。 ウェールズは頷いたが、最大限の警戒を持って再び杖をジョルノへと向けた。 敵意に近い警戒心に表情を厳しくする皇太子に、ジョルノは何の反応も見せず薄く微笑んで佇んでいた。 「…勿論だ。私の叔父であり、間接的に今の事態を引き起こした要因の一つでもある」 「レコンキスタにモード大公へ忠誠を持っていた者でもいるのですか?」 「伯爵なら知っているのではないか? 父は否定しているが…叔父とその部下達が抜けた穴を父は塞ぐことが出来なかったのだからな」 ウェールズが言ったことについてはジョルノも知っていた。 アルビオンで力をつけていく間に、アルビオン貴族だった者達も従えるようになったジョルノにはそうした情報は素早く入っていた。 財務監督官だったテファの父は、そしてマチルダの父親であるサウスゴータの太守らはアルビオンの政治と経済に深く関わる人物達でもあった。 そんな彼らが皆テファの父共々次々と重罰に科せられ、いなくなった。 それはモード大公の事件を利用し、新たに権勢を得ようと一部の貴族達が暗躍した結果だった。 新たに権勢を得た貴族達は前任者が引き継いできたものを捨て去り、自らの手腕を発揮しようとした。 だがそれは、うまくいかなかったのだ。 もっと長い時間をかければ形になったかも知れぬ彼らの仕事が実を結ぶ前に、押し退けられた者達とまた新たに力を得ようとする者達が手を取りこの戦争を引き起こした。 「さあ? それより知っているなら話が早くて助かります。テファと会っていただきたい」 「テファ…まさか、叔父上、モード大公の」 呆然とウェールズが呟いた。手に持っていた亀を、ジョルノは床に下ろす。 「ま、待って姉さん…っ、わ、私、まだ心の「30秒で仕度しなって言ったろ!?」 すると亀の中から帽子を被った頭が出た。驚いて杖を向けようとするウェールズの腕を、その頭を押し退け伸びた腕が掴む。 殺気に満ちた目をしたマチルダがウェールズを睨みつけながら姿を現し、その後ろに隠れるようにして、テファが亀から出た。 向けられる殺気に覚えはなかったがウェールズは、慣れたものと受け止め、深く被った帽子を押さえた女性を見た。 マチルダが家を潰され、家庭を滅茶苦茶にされたことについてどれ程の恨みを持っていようとも…ウェールズはそれに取り合う気はないようだった。 ニューカッスル城で会うものとばかり考えていた。 それにジョルノは王女の暗殺を考えているなどと聞かされ、更に宇宙人が変身したアイスなんてものを食べて大騒ぎしていたテファに、心を決めることなどできているはずもなかった。 顔が真っ赤になるくらい緊張して、最初俯いていたテファが助けを求めてジョルノを見る。 ジョルノはそんな態度を不思議がってでもいるように、体を傾けて立っていたが…暫くしても何も動きがないのを見てテファに言う。 「テファ。貴方がどうしてこの方と会いたいと言ったのか、僕は知りませんが…既に覚悟をしたから会いに来たのではないんですか?」 ウェールズの手を放し、少し距離を置いて一挙手一投足を油断なく監視していたマチルダが、その言い草にジョルノにも怒りの篭った視線を向ける。 テファがこんな様になっている理由の半分以上がジョルノのせいなのに、身勝手なことを言うのが気に入らなかった。 言葉に詰まりまた俯いてしまったテファは、「う、ん…ご、ごめんなさい」と小さな声で答えた。 小刻みに震える指でテファは深く被った帽子を取る。 帽子の中から現れたエルフの特徴である長い耳に、ウェールズは目を見開いたがもう杖をテファに向けたりはしなかった。 「は、初めまして。ウェールズ殿下。お会いできて嬉しいです。わ、私ティファニアって言います。えっと、わ、私…母はエルフで父はモード大公です」 「もう一人の従姉妹殿が…生きていたのか」 マチルダから向けられた敵意で我に返ったウェールズが呟く。 頷き返したテファを不思議そうに見ていた。 何故ここに、こんな危険な場所にわざわざ現れたのか、ウェールズには理解が及ばなかった。 「ティファニア。何故こんな危険な場所に来たのだ。今までどおり隠れていれば、私と父王の状況を知らないわけもあるまい」 「私、お父さんのことが知りたかったの。私が生まれたせいでどうなたったのか…よく知っているはずのお二人から」 「それだけの為に?」 「う、うん…」 頷き返されたウェールズは唖然として、言葉が出なかった。 死んだ父親の死に纏わる話を聞く為だけに内乱中のアルビオンに潜入し、既に負けが決まった自分達に会いに来たなど信じがたい話だった。 レコンキスタの軍勢に、今『イーグル』号が向かっているニューカッスル城も包囲された自分達に…なんと無謀なことかとウェールズはジョルノ達の顔を見た。 偶然自分が彼らの乗る船を襲ったとはいえ、そんな無謀な行為を許し、連れてきた者達の正気もウェールズは疑っているようだった。 今やウェールズにはネアポリス伯爵と言う少年は、自分達王家の血を引く者を惑わす悪魔のようにさえ映っていた。 悪魔と視線が絡み合った。 「ウェールズ殿下。彼女の望みを叶えてもらえますか?」 合わさった瞬間、微かな怯えを見せた皇太子にジョルノは尋ねる。 マチルダや、亀…何故かジョルノの革靴からも視線を感じながらウェールズは居住いを正し、力強く頷いた。 「…それについては、私に反対の意思はない。モード大公の娘として正当な権利が欲しければ私から父上を説得しよう」 「え…「少し話が飛躍しているように感じますが」 「伯爵、我が王家には時間が残されていないのだよ。絶えるはずだった我が王家の姫が一人生き残るという機会を先延ばしにする理由があると思っているのか?」 「し、信じてくれるの? 私がお父さんの娘だって」 「王家の血を引く姫だと言ってハーフエルフを連れてきておいて、よく言うね」 言うなり、ウェールズは先ほど自らの身分証明に使用した王家の証、王家に伝わる始祖の秘宝『風のルビー』を指から外し、テファの手の中にねじ込むようにして押し付けた。 「え? あの…」 「父も反対はすまい。例えエルフの血を引いていようと、いやレコンキスタなどと言う輩が現れた今となってはいっそ小気味よいかもしれないな」 一人笑い出したウェールズに、テファは手の中に入れられた指輪と初めて顔を会わせた年上の従兄弟の顔を交互に見る。 「その『風のルビー』は君が持っているんだ。もしもの時、証明する道具の一つになる。譲渡する書類もすぐに作成しよう」 そうしたやり取りは、マチルダの目には不愉快極まりなかった。 わなわなと手が振るえ、目を血走らせたマチルダが怒鳴る。 「アンタ、ふざけてんじゃないだろうねっ!? モード大公や、お父様を殺しておきながら…ッ!!」 「マチルダさん、黙ってください」 詰め寄ろうとするマチルダとウェールズの間に、ジョルノが割って入った。 ジョルノは普段と変わらぬ冷静な態度でマチルダを、そしてテファへと視線を向ける。 「いらなければ後で棄てればいいんです。テファ、そんなことよりお父上のことを聞かなくていいんですか?」 「あ、うん…ウェールズ殿下。父のことを、教えてください。この内乱も関係あるようなことをおっしゃられてましたけど…?」 王家の、始祖の秘宝をあっさり棄てろと言う少年に皇太子は苦笑した。 ウェールズを悩ませるもう一つの用件の時といい、始祖や王家等に対する敬意など欠片も持ち合わせていないらしいと、ウェールズは感じていた。 だがそんな人間がこのハルケギニアに何人いるのか、ゲルマニアの血統らしいがまるでサハラや東方から来たと言われた方がウェールズには信じられただろう。 「直接関係はない」 「どういうことですか?」 「……遺恨が残ったのだよ。貴族にも、平民達との間にも」 言いにくそうに返された返事に、テファは息を呑んだ。 彼女の姉であり保護者。今もウェールズを睨むマチルダの姿から、テファには容易に想像がついたからだった。 「叔父上の話は、私ではなく父上に聞くといい。私もまだ幼く、数えるほどしか会わなかったのだ」 ウェールズがそう言って話を切り上げて三時間ばかりが過ぎた。 思っても見なかった程好意的に自分を受け入れたウェールズに驚きと共に、次第に嬉しさがこみ上げてきたらしいテファは、国王に会うことを楽しみにして亀へと戻っていった。 それとは対照的に、怨敵と顔を合わせてもテファの為には堪えなければならないマチルダの顔は、表面に出さぬように努めていたが…ジョルノの目には消えることのないどす黒い感情で歪められていた。 テファがこれに気付くより先に、マチルダへの慰めをポルナレフに期待して甲板に上がっていたジョルノ達の視界に大陸から突き出た岬が見えた。 岬の突端には、高い城がそびえていた。 そしてそこへと王党派を追いやった貴族派が如何にして包囲を行っているかも一目で確認することが出来た。 ウェールズは後甲板に立ったジョルノ達に、あれがニューカッスルの城だと説明した。 貴族派を避ける為か『イーグル』号は真っ直ぐにニューカッスルに向かわずに、大陸の下側に潜り込むような進路を取る。 「なぜ、下に潜るのですか?」 ウェールズは、城の遥か上空を指差した。遠く離れた岬の突端の上から、巨大な船が降下してくる。 慎重に雲中を航海してきたのはこの為で向こうには『イーグル』号は雲に隠れて見えないはずだとウェールズは語った。 「叛徒どもの、艦だ」 本当に巨大、としか形容できない、禍々しい巨艦であった。 『イーグル』号の優に二倍はある船体に何枚もの帆をはためかせ、巨艦はゆるゆると降下していく。 ゆっくりと巨艦の腹に幾つもの窓が開き、ニューカッスルの城めがけて並んだ砲門を見せた。 斉射の震動が『イーグル』号まで伝わってくる。砲弾は城に着弾し、城壁を砕き、小さな火災を発生させた。 「かつての本国艦隊旗艦、『ロイヤル・ソヴリン』号だ。叛徒どもが手中に収めてからは、『レキシントン』と名前を変えている。やつらが初めて我々から勝利をもぎとった戦地の名だ。よほど名誉に感じているらしいな」 ウェールズは微笑を浮かべて言った。 「あの忌々しい艦は、空からニューカッスルを封鎖しているのだ。あのように、たまに嫌がらせのように城に大砲をぶっ放していく」 雲の切れ目に遠く覗く、無数の大砲を曝け出したままの巨大戦艦の艦上をドラゴンが舞っていた。 「備砲は両舷合わせ、百八門。おまけに竜騎兵まで積んでいる。あの艦の反乱から、すべてが始まった。因縁の艦さ。 さて、我々のフネはあんな化け物を相手にできるわけもないので、雲中を通り、大陸の下からニューカッスルに近づく。そこに我々しか知らない秘密の港があるのだ」 城からの反撃を受けぬ位置に野営する兵の姿を目に納めてからジョルノは亀を持って船内へと戻っていく。 雲中を通り、大陸の下に出たのか船内は次第に真っ暗になった。 大陸が頭上にあるため、日が差さないのであろう。船内のあちらこちらに備えられた魔法の照明に灯りが灯っていく。 雲の中にいるせいで並んだ窓の外には何も見えない。 視界がゼロに等しく、簡単に頭上の大陸に座礁する危険があるため、反乱軍の軍艦は大陸の下には決して近づかないのだ、と甲板でルイズ達にウェールズが語っているのが聞こえてきた。 「地形図を頼りに、測量と魔法の明かりだけで航海することは、王立空軍の航海士にとっては、なに、造作もないことなのだが」 貴族派、あいつらは所詮空を知らぬ無粋者さ、とウェールズは笑っていた。 その笑い声は、そんな者達に追い詰められる自分達の滑稽さを嘲笑っているようでもあった。 To Be Continued...
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アルビオンの端、ニューカッスル城の上空に浮かぶ貴族派の船がゆっくりと落下していく。 その中で一際目立つ巨大な戦艦…レキシントン号から巨大な樹が一本生えていた。 生命エネルギーを与えられ成長した巨木がレキシントン号を縦に貫きて葉を生い茂らせていた。 その幹には急激な成長を遂げる途中に巻き込まれたメイジや、竜やレキシントン号のメインマスト。 ジョルノの生み出した虫達までが巻き込まれていた。 AK小銃を一端肩に背負い、クイックローダーを使って拳銃の弾を入れ直しているジョルノの前にも一つの銃弾を元にして生み出された樹に飲み込まれた貴族派のメイジ達がいた。 だがその半分以上は既にジョルノの手によって殺害されている。 全員額に銃弾を一発ずつ撃ちこまれ、息絶えていた。 まだ生き残ってるのは裏切り者のワルド。 幹に取り込まれ、身動きできない状態にありながら戦意の衰えを見せないワルドの杖に向けて、ジョルノはリロードが完了した拳銃の引き金を引いた。 樹の破片に混じってワルドの指が宙を舞う。だがそれでもワルドは痛みに声を上げることもなく、憤怒だけを見せてジョルノに唾を吐いた。 「ジョナサン…ッ! 殺してやるッ貴様だけは、」 ジョルノは表情を変えずに生き残ってる残り二人を見た。 貴族派の総司令官クロムウェルとぴったりとした黒いコートを身にまとっている女性。 プッチ枢機卿の言葉を思い出し、恐らくはこの女性があらゆる魔道具を扱える虚無の使い魔・ミョズニトニルンなのだろう。 恐らくはプッチ枢機卿の手によって変貌した主人の仇を討つ為にクロムウェル達を利用しているのだろう、ということだったが…ジョルノはフードを捲った。 若干けばけばしい化粧をした女性の顔が現れ、その額にはジョルノの左手で光っているのとはまた別の使い魔のルーンが刻まれている。 「き、君! わ、私を助けてくれ! わ、私はシェフィールドに唆されただけなんだ…! 助けてくれれば褒美はなんでも取らせようッ、私の虚無を使えば死者を蘇らせることも…」 「ワルド。裏切ったとはいえ、トリスティンの魔法衛士隊の隊長が殺すなんて言葉は使うんじゃあない」 埋まったクロムウェルの体があるであろう辺りの幹に、ジョルノは銃弾を込めなおした拳銃を押し当てて引き金を引いた。 樹皮を打ち抜いて銃弾はクロムウェルの心臓を打ち抜いた。 シェフィールドが驚いて目を見開く。 「『心の中でそう思った時には既に行動は終わっている』、お互いそうありたいものだと思いませんか?」 紐で縛り、腰に下げた亀の中には、ポルナレフもテファもいる。 だがジョルノは構うことなく冷静な態度で言うと、ワルドにも銃口を向け引き金を引いた。 薬莢が吐き出され、床に落ちる。 「シェフィールド。僕の部下にならないか?」 「断れば…聞くまでもないか」 撃鉄が起こされるのを見て、シェフィールド…ガリア王ジョゼフ一世の使い魔は観念したような顔で息をついた。 そうして、王党派のアルビオン国王ジェームズ一世と貴族派の総司令官クロムウェルの戦死を持ってアルビオンの内乱は終結した。 ニューカッスルに突如出現したという夥しい虫の群れは何処かへ姿を消し、貴族派の死体でニューカッスル城へと続く道が埋まっていることだけが『始祖の奇跡』として記録に残った。 ニューカッスル以外の貴族派達も今まで一人の援軍も送らなかったガリア・ゲルマニア・ロマリア連合軍により悉く壊滅させられたという報が届くのは、ジョルノ達がクロムウェルの首級を挙げてから数日後のことであった。 亡命貴族達の要請に応えたと主張する彼らがアルビオンに居座ることは火を見るより明らかであったが、生き残ったアルビオン王国の皇太子ウェールズ・テューダーにはそれを跳ね除ける力はない。 貴族派の死体を片付け、彼らをニューカッスル城跡を会場にした宴に招待し、内乱の終結と即位を告げるウェールズの表情には時折曇るのはその為だった。 隠そうとしているのだが、報を聞き駆けつけたトリスティン王女アンリエッタを会場に見つけ、喜色満面の笑みを浮かべる最中にさえウェールズの表情には時折暗い陰が差す。 目聡い者は気付いていたが、皆父王の死によるものだと勘違いして皆気付かぬふりを決め込むのだった。 それはアンリエッタと共に招待された『マザリーニ枢機卿』とその護衛につく魔法衛士隊の一つマンティコア隊隊長に復帰した『烈風カリン』も同じであった。 トリスティンでマザリーニが推し進めていたアンリエッタの婚儀は、レコンキスタに対抗する為にこそ、彼らにとっては野蛮なゲルマニアへ王女を嫁がせようと言う話も出たのだ。 ゲルマニアはそれをトリスティン以外の国と電撃的にアルビオンに攻め込むことで解決した。 ないがしろにされた彼らの心中は穏やかなはずがなかったが、それらを軽く眺めて…ウェールズは壇上に奇妙な人物を呼んだ。 彼らの感性で言うと少し年かさの美女を伴い、金糸銀糸で細かな刺繍が施された清楚なドレスに身を包んだ少女がウェールズの隣に立った。 元王家御用達であったネアポリス伯爵家のお抱えの仕立て屋の手によるドレスに淑女達の間からため息が零れる。 少女が完全に壇上に上がった時、彼らはざわめき呟いた。 『胸が、革命を起こしている…ッ!?』 そのざわめきが覚めやらぬ内に、彼らは少女が気品のある美しい顔立ちをしていることと「エルフの耳」を持っていることに気付き更にどよめいた。 杖を抜こうとする者を慌てて同席していた者達が押し留め、国王となったウェールズは少女を…テファを彼らに紹介する。 「ゴホンッ、来賓の皆様にご紹介します。彼女は私の叔父今は亡きモード大公のご息女ティファニアです」 「は、初めまして…」 気後れしそうになりながらも、テファは傍で控えるマチルダに習った通りの作法で各国の要人へと挨拶をする。 胸が揺れてゴクリッと生唾を飲み込む音と女性に足が踏まれた男達の叫び声が響いてから、ようやくアルビオン貴族の誰かから、声が上がった。 「陛下! その娘の耳は…!」 「その通り、彼女の母はエルフだ」 エルフ…ッ! 聖地を占拠する亜人、始祖の宿敵を母とする始祖の血統を受け継ぐ娘…一瞬の空白が会場を支配し、その後糾弾する声が上がった。 非難する者。杖を抜き、魔法を唱える者。 だがそれらを…今にも一人の悪魔を殺そうとする貴族達の頭上に澄んだ少女の声と閃光が降ってきた。 「やめなさい貴方達! 始祖はそんなことは望んではおられないわ!」 貴族達は呆然と、特にその閃光に飲まれて消えたアルビオン貴族派の姿を見たアルビオン貴族達は頭上を見上げた。 片手に亀を持った尼僧姿の少女が空から降ってくる…隙間から覗く桃色がかった髪を見たカリンの、魔法衛士隊の制服が、表情を隠す仮面が微かに動揺で震えた。 「な、なんだ貴様はッ「せめて貴方様とお呼びしろゲルマニアの糞野郎!」 真っ先に正気に帰った誰かを隣に立っていたアルビオン貴族が殴り倒した。 「あの方こそ…「皆様。彼女こそ復活した虚無! 王党派を、アルビオン王家を…始祖の虚無で救った『ニューカッスルの聖女』ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール様です!」」 興奮した声で、壇上から誰かが説明した。 卑屈なほど丁寧にお辞儀をする彼は、鳥の骨とあだ名されるマザリーニとは反対に肥え太り、額に光る汗を拭きながら言ったのは、ロマリアの枢機卿の一人グロスター枢機卿だった。 アルビオン王党派を消し飛ばした閃光を見て聖女の誕生を確信したと言う彼はこの3カ国による共同戦線を提案した人物として顔も知られていたが、『虚無』の一語に気を取られ動けずにいる貴族達は誰も彼を見ようとはしなかった。 輝く太陽を背に降りてくる純白の尼僧服に身を包んだ聖女を見上げる彼らの中から、拍手が徐々に上がる。 背後の澄み切った空に、右手を輝かせた竜騎士が何十という竜を引きつれ飛んでいく。アルビオンの貴族達から喝采が上がった。ルイズの名が連呼される。 聖女は奇妙な杖を持っていた。 箱の付いた短い棒…ジョルノが用意した拡声器で増幅した声でルイズは言う。 「皆様、私は始祖の声を聞きました…! 始祖はこのハルケギニアでの繁栄こそ願っておられます。聖地の奪還など…まして武力で持って行うなど始祖ブリミルは望んでおられません…!」 虚無の光に敵意を消し飛ばされたように、彼らはルイズの言葉を大人しく聴き…種族間の壁を超えた恋愛の末に生まれたテファを祝福するという彼女の慈悲の心に感化されようとしている。 「聖女様が言うんなら…」 聖女の言葉を聴きいれ、テファの存在を認めようとする声が貴族達の中から上がり始めた。 彼らの中にいるプッチ枢機卿とパッショーネが手回ししたサクラ達が、機能し始めたのだ。 会場の端。 ジョルノが生物にし、能力解除によってただの物質へと戻った建材が詰みあがった瓦礫の中に光り輝くコロネがあった。 亀、ポルナレフはルイズに貸し出した為子の場にはいない。 サイトも竜を操ってルイズに箔を付けにいったし、ミキタカもそれについていってしまった。 人を殺したレンガが詰みあがった壁に隠れるようにして、ジョルノは一人。 テファが認められるまでの一連のパフォーマンスを厳しい目で見つめていた。 いつかはこうするつもりだった。 テファを、彼女を隠してきたマチルダ達の地位を回復させる。 ハーフエルフであることも含めて、世間に認めさせいつかは堂々と母の故郷にも行けるようにする。 内乱から逃れる為にアルビオンを脱出する時に、決めていたことがようやく第一歩を踏み出した。 その為に、彼らの信仰、彼らの受けた教育により彼らの奥底にこびり付いた反応を押さえ込む為にパッショーネを強大にもした。 何年かけても…その過程でどれだけのプロテスタントを生み出すことになろうとも。 だが、それはもっと緩やかに行われるはずのことだった。 こんなに急激な動き、ましてやルイズを聖女に仕立て上げ、テファを王女にしようなどという予定ではなかった。 自由を奪われ、利用し利用される世界へと足を踏み入れてしまった。 これで二人は軽はずみな行動など取れなくなっていってしまう。 今目の前の光景は、ジョルノの隣でワインを傾ける黒衣の枢機卿の手に拠るものに過ぎない。 ロマリアの思惑とトリスティンの思惑とアルビオンの、ウェールズの思惑が重なった結果に過ぎない。 テファを王女として世間に認めさせたのは、ゲルマニアとガリアにそれぞれ領地の三分の一に両国の軍隊を駐留させられた為だ。 トリスティンの大貴族ヴァリエール公爵家の次女カトレアの養女となる話は、マザリーニの手によって処理されていた。 トリスティン王家の血も流れている大貴族の養女が女性の身でモード大公となり、王女として王位継承権を持つことが両国の関係を深くする。 加えて結果的にジョルノがアルビオンの国益に叶うよう動く割合が多少なりとも多くなるであろうと考えられている… そして『アルビオンの聖女』となってしまったルイズによって二国の関係は更に深まり、ロマリアとの、何よりブリミル教の信者達の支持を得る。 全てはガリアとゲルマニアの干渉に対抗してのことだ。 皆に会わせる顔などない…ジョルノの表情は険しかった。 いつのまにかその隣に黒い肌をした、枢機卿の礼服に身を包んだ男が現れていた。 今回の侵攻とそれに伴うこの不本意な流れを作ったプッチ枢機卿は乾杯、とアルビオン産のワインを注いだグラスを掲げ、一口に飲み干した。 次を注ぎながら彼は言う。 「ジョジョ。君の目的は一先ず達成と言った所かな」 「いいえ、」 「それに…」とジョルノは瓦礫に持たれかかり空を見上げた。 「それに?」 ジョルノは首を振って、爽やかな笑みを浮かべた。 その足元で正座をする牛男を見下ろし、「パッショーネの引き締めも行わないとならない。やることは山済みです」 プッチ枢機卿の前だったが、パッショーネのことはラルカスからばれてしまっていた。 それもジョルノがラルカスに反省を促す理由の一つだったが、だが牛男、ラルカスは反省のポーズをとりながらも目を目を逸らさなかった。 「だがジョナサン。これでパッショーネはより全ての国家に食い込むことが出来た…!?」 ラルカスは弁解しようとして顔を上げたまま動きを止めた。 トリスティンに残っている遍在に、何かあったのかもしれない。 ジョルノとプッチ。二人はラルカスの報告を待った。 「ボス…カトレア嬢が倒れた。病が、再発したかもしれん」 真剣な表情で告げられたジョルノは瓦礫から背中を離す。 会場に背を向けるジョルノに、ワインを堪能していたプッチ枢機卿が声をかける。 「行くのかね。そのカトレアとかいう女が心配か?」 「パッショーネの引き締めも行わなければと言いました。テファともう一度話をしてからと思っていましたが…ここに来る時に彼女には無理をさせました。借りは返さなければ」 「なるほど。それなら、ロマリアの竜騎士に送らせよう。何せ君もクロムウェルを倒した勝利の立役者、危険があるかもしれない」 逡巡するような素振りを見せて、ジョルノは頷く。 「ラルカス。その遍在はこのままアルビオンに残れ。テファについていろ」 「わかったぜ」 そう言って、ジョルノは走り出す。 ジョルノが去ったことに壇上のテファが気付き、目に見えてオロオロし始めるのがプッチ枢機卿にはよく見えた。 見世物でも見ているように笑みを浮かべて見物する。 カトレアが体調を崩すよう仕向けた甲斐があったというものだ。 (今回の動きで、彼らの間には亀裂が入った。次はテファとの距離を置かせてみるとしよう…領地運営の為に若く魅力的なアルビオン紳士も補佐につけてやれば案外面白くなるかもしれない) 「ああそうだ。ラルカス」 プッチ枢機卿は思い出したようにラルカスに尋ねる。 ラルカスはまだ正座をしたまま瓦礫に腰掛ける顔所か心まで真っ黒な枢機卿を嫌そうに見上げた。 「名前を聞いて思い出したんだが、カトレア嬢もあの年だ。結婚相手を探そうっていう話が出ているそうだが…ジョジョが邪魔ということになってしまったりはしないだろうね?」 「それは…あるかもしれんな」 「そうか…残念だな」 全く残念そうではない口調で言うプッチ枢機卿をラルカスは睨みつけた。 今後アルビオンにはパッショーネの息がかかった店が増えることになるだろう。 その為に行ったのだが、この枢機卿がジョルノを追い込んでゆくのではないかと言う予感が頭の片隅に浮かんでいた。 To Be Continued...